2011 Fiscal Year Research-status Report
室町文化史料としての古往来とその作者・享受層に関する研究
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23520239
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小川 剛生 慶應義塾大学, 文学部, 准教授 (30295117)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 往来物 / 室町時代 / 一条兼良 / 飛鳥井家 / 新札往来 / 尺素往来 |
Research Abstract |
まずは、南北朝期・室町期の往来物に関する基礎的な研究として、宮内庁書陵部・東京大学史料編纂所・国立歴史民俗博物館ほかの所蔵機関に赴いて、尺素往来・新札往来・山密往来・庭訓往来などの諸本調査を実施し、詳しい書誌的な知見を得た。また国文学研究資料館では、紙焼写真・複製マイクロフィルムリールを縦覧して、非常に伝本の多い尺素往来の本文系統について、新たな見通しを得ることができた。これまで広く利用されてきた、群書類従や日本教科書大系のテキストの問題点も明らかになってきた。 ついで、主な研究対象である、室町時代の根幹史料として、大日本史料第八編ほか、関係する研究文献を購入したことで、さまざまな研究の便宜を得た。 また個別の研究としては、まず往来物が最高権力者である武家政権―幕府の将軍をいかに描写しているかについて、歴史学における近年の「室町殿研究」の成果を踏まえて、研究を進めた。その結果として、義満・義持については、かなり具体的な姿が明らかになってきた。とくに尺素往来での冒頭部は注意が必要である。それから、尺素往来の著者である一条兼良の伝記と著作・古典研究など学芸についての研究を進めた。さらに室町中期の学芸の一つの典型として、歌道・蹴鞠の師範である飛鳥井家の歌学、とくに権中納言雅縁(宋雅)について注目し、いくつかの論文を発表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、歴史史料としての往来物を利用するという視点が、室町時代の研究に有効であるかを確かめ、かつ諸本研究・本文批判などの基礎研究に費やした。その結果、本文の問題点が浮き彫りになってきて、何を底本とすべきかについても見通してを得た。また、これまでは往来物や書簡例文集などの文献が文化史研究ではほぼ等閑視されてきたために、考察はかなり広い範囲に及んだが、集中的に室町期の学芸に関する、いくつかの論文を執筆することができた。この点については当初の予定通りであり、かつ計画を立てた時の目論見が当たっていたことが確かめられた。
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Strategy for Future Research Activity |
推進方策については変更はない。尺素往来の校訂と注釈に全力を注ぎたい。 ただ、研究の進展につれて、往来物の範囲を、従来よりもっと広く適用すべきという考えに傾いている。たとえば宮廷行事に関する仮名日記は、描く対象の理想化と、また物尽くしという点で、類似は甚だしい。書簡例文集はなおさらである。さらに軍記物語、たとえば太平記なども、百科全書的にさまさせまな知識を網羅し、広く浅く世間に伝えるという使命を持っており、この点への配慮が必要であろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
とくに大きな変更はなく、科研費申請時に立てた計画の通りに進める予定である。
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