2012 Fiscal Year Research-status Report
覚一本『平家物語』の遡行と伝播・受容についての基礎的研究
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23520242
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
櫻井 陽子 駒澤大学, 文学部, 教授 (60211934)
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Keywords | 国文学 / 平家物語 / 本文 / 受容 |
Research Abstract |
4年間の研究の2年目にあたる。昨年度の基礎調査の不足・遺漏を補いつつ、発展的な調査も行った。 (1)京師本系統の伝本調査:昨年度の調査結果に基づき、校合を中心としたデータ整理を続行した。研究補助を阿部昌子に依頼している。伝本による本文の相違はかなり部分的に現れる。書写者(改変者)の嗜好を考える必要があるとの見通しがたってきた。 (2)覚一本主要伝本の調査:昨年度に引き続き、龍門文庫本の調査に重点をおき、それと共に新たに、龍門文庫本の類本を求めた。『古本平家物語書抜』「那須家所蔵平家物語目録」を手がかりに、龍門文庫本奥書の「文安三年」書写を持つ平家物語が、江戸時代には複数存在したことを突き止めた。その調査のために、栃木県立文書館、那須与一伝承館に赴いた。また、古書目録から、昭和20年代までは確実に存在していたことも判明した。 (3)後期覚一本系統の伝本のリストアップと調査:内閣文庫本・天理(一)本(以下、「旧田安家本」)・天理(二)本の調査を行なった。複写を入手することが出来、調査が進んだ。中でも、上記(2)と連動するが、西教寺本・龍門文庫本系統にあるとの指摘を受けてはいても調査の不完全だった旧田安家本が西教寺本系列の本文形成を考える上でヒントになることがわかり、研究補助を阿部昌子に依頼して、本文異同データ収集を始めた。また、その調査の必要上、再び龍門文庫に赴いた。(4)覚一系諸本周辺本文の調査:影印本などを用いて本文異同のデータを蓄積している。鎌倉本を基点として覚一本・屋代本などとの距離を測り、従来の研究では触れ得なかった、底本の素性を探る研究を始めている。 以上、基礎的研究は進み、また、細かな校合作業が更に必要となっている。伝本が発する情報を汲み取るという研究目標を達成しつつ、更に、覚一本の伝本流動の具体的様相を明らかにするという目標も達成しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実際に伝本に触れることによって得られる知見をもって先行研究を見直し、先行研究の再評価と批判を行なうと共に、従来見落とされていた問題点や考究すべき点を明らかにしつつある。現存については不明だが、かつて確実に存在した伝本も追跡調査が可能であった。それを基に、研究は発展的に拡大してきている。その点でも有意義であったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
23・24年度に行なった前記(1)~(3)の基礎的調査をさらに続行し、覚一本の性格とその流動の幅と意味・意義を考究する。また、(4)についても、鎌倉本などが使用した覚一本とはどのような本文であったか、具体的に示すことができるように調査を続行する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1 旅費:伝本調査。龍門文庫本、東京大学文学部蔵本、内閣文庫本、東北大学三春文庫本などの覚一本系伝本を調査対象候補とする。 2 その他:以上の諸伝本および資料の未撮影分の撮影・複写 3 消耗品・謝金:調査で得られた資料のデータ整理(研究補助を必要とする)。
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