2013 Fiscal Year Research-status Report
覚一本『平家物語』の遡行と伝播・受容についての基礎的研究
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23520242
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
櫻井 陽子 駒澤大学, 文学部, 教授 (60211934)
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Keywords | 国文学 / 平家物語 / 本文 / 諸本 / 受容 |
Research Abstract |
4年間の研究の3年目にあたる。昨年度の基礎調査結果をもとに分析と考察を行い、新たな基礎調査も行った。 (1)京師本系統の伝本調査:昨年度の調査結果に基づき、校合を中心としたデータ整理を続行した。研究補助を阿部昌子に依頼している。昨年度に引き続き、データを蓄積した。 (2)覚一本伝本の流動の実態調査:昨年度、覚一本の一伝本の「文安三年奥書本」が複数存在することを突き止めた。現存伝本には西教寺本・龍門文庫本・天理本(旧田安家本)がある。この三本の本文を精査することにより、覚一本伝本の本文の流動の実態の一端を明らかにすることができた。調査の必要上、再び龍門文庫に赴いた。また、天理本は取り合わせ本であることも判明した。単純な書写関係にあるのではなく、一本ごとに独自の校訂を重ねている。しかも、校訂に際しては、別種の一方系の本を用いている。これは覚一本の奥書の権威を疑わせ、本文の固定性への信仰も揺るがせる。逆に、覚一本本文への疑念を出発点とした校合作業が窺える。従来の研究は、覚一本に対して過剰な幻想を抱いてきたのではないか、と考え始めている。(3)覚一本と一方系諸本の本文調査:どれほどの本文異同を含むのか、試みに覚一本・京師本・流布本の校合作業を、研究補助の阿部昌子の協力を得て行なった。語りとの関係を予想させる繰返し表現、フレーズ単位での移動など、先後関係などは見極めがたいものの、考えるべき要素が浮かんできた。(4)覚一系諸本周辺本文の調査:鎌倉本を基点として覚一本・屋代本などとの距離を測る調査の継続。屋代本の新しさがあぶり出されている。百二十句本の検討の必要性が見いだされてきた。 以上、今年度は机上での細かな校合・検討作業が多かった。小さな発見が重なっている。伝本が発する情報を汲み取るという目標を超えて、覚一本の伝本流動の具体的様相を明らかにするという目標が達成されつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実際に伝本に触れることによって得られる知見をもって先行研究を見直し、先行研究の再評価と批判を行なうと共に、従来見落とされていた問題点や考究すべき点を明らかにしつつある。下った本文として等閑視されてきた伝本の精査により、新たな問題を析出し、研究を深化させつつある。その点で有意義であった。
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Strategy for Future Research Activity |
23~25年度に行なった基礎的調査をもとに、覚一本の性格とその流動の幅と意味・意義を考究し、4年間の研究をまとめる。また、調査の及んでいない伝本についても、調査を行い、今後の研究の基盤を作っておきたい。 1 旅費:伝本調査。龍門文庫本、東京大学文学部蔵本、東北大学三春文庫本などの覚一本系伝本を調査対象候補とする。 2 その他:以上の諸伝本および資料の未撮影分の撮影・複写 3 消耗品・謝金:調査で得られた資料のデータ整理(研究補助を必要とする)。 4 研究報告書の作成
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度は予定していた調査旅行が遂行できなかった。よって、今年度は計画していた調査旅費に、昨年度行けなかった東北大学附属図書館への調査旅行を加える。 (1)調査旅費:龍門文庫2回(150,000)、東北大学(60,000) (2)謝金(研究補助):8,000×1人×10日=80,000 (3)文献複写費・研究報告書:100,000 (4)消耗品:10,000 合計:400,000
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