2014 Fiscal Year Research-status Report
覚一本『平家物語』の遡行と伝播・受容についての基礎的研究
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23520242
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
櫻井 陽子 駒澤大学, 文学部, 教授 (60211934)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 国文学 / 平家物語 / 本文 / 諸本 / 受容 / 覚一本 / 世阿弥 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初、最終年度として、4年間の総括を行う予定であった。しかし、所属学会(中世文学会)の大会におけるシンポジウムで、能と平家物語について報告をすることになった。そこで計画を変更し、15世紀前半の平家物語の流布・享受の実相を、世阿弥作の能作品の分析を通して考察をした。 世阿弥が語り本系を多用していることに注目し、使用諸本本文の特定を試みたところ、研究課題にも通じる、15世紀前半の覚一本『平家物語』の流布状況を実態的に把握することができた。世阿弥が用いた覚一本は、現在の覚一本に非常によく似ているものの、同じではない。 「覚一本」と称される『平家物語』は、唯一絶対のものではなく、本文は微妙に揺れていた。覚一本の周辺に、類似して同一ではない本文が多く流通していた。覚一の権威は本文の固定化するものではなかったと考えられる。また、八坂系も覚一本も、あまり意識的な区別がなされているとも思われない。 いっぽうで、世阿弥は読み本系(源平盛衰記と思われるが、現在の盛衰記と同じではない)も用いている。覚一本などの語り本系とは異なる『平家物語』として意識され、作能に新たな舞台設定や詞章の表現世界の素材を提供している。同じ『平家物語』ではあっても、別種のものとして意識されていたようである。 このような研究成果を通じて、覚一本『平家物語』の遡行について考えることができた。 いっぽう、本来の研究計画は、少しスピードは落ちたが進めてきた。(1)京師本系統の伝本調査は、研究補助の阿部昌子によってデータを蓄積している。(2)覚一本伝本調査は、龍門文庫の調査を行った。その他に、新たな覚一本伝本の存在が明らかになった。(3)覚一系諸本周辺本文の調査は、鎌倉本の調査結果から、百二十句本、特に最も古いと考えられる斯道文庫本の調査が必要であることが判明し、まず、本文翻刻から始めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年間継続して進めてきた覚一本伝本の流動の実態調査は少々頓挫し、一時は研究達成が危ぶまれたが、能における『平家物語』本文の受容の実相を考察することによって、覚一本の本文の遡行の様相を具体的に考えることができた。予想外の収穫であった。 総体的に見れば、研究の進展を実感することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
総括に向けてのまとめを行う。 同時に、新たに出現した覚一本伝本の本文調査を行い、覚一本の流動の多様性と柔軟性を分析する。 そのための旅費と撮影と文献複写に経費を使用する予定である。
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Causes of Carryover |
当初、平成26年度に研究の成果を総括する予定であった。しかし、所属学会より依頼を受け、大会でシンポジウムのパネラーとして、計画外の能と平家物語について報告をすることになった。そこで計画を変更し、15世紀前半の平家物語の流布・享受の実相を、能作品の分析を通して考察をした。望外の新しい成果と方向性を得ることができたが、当初計画していた総括には至らず、未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
偶然ではあるが、新出の覚一本伝本の調査が可能となった。その調査のために残額を使用する。その上で、平成26年度に行う予定であった総括を、新しく得られるであろう知見を含めて行う。
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