2013 Fiscal Year Research-status Report
『源氏物語』を中心とする平安文学の古注釈と受容に関する研究
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23520251
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
陣野 英則 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40339627)
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Keywords | 古注釈 / 源氏物語 / 長珊聞書 / 河海抄 / 待遇表現 / 文 |
Research Abstract |
平成25年度は、前年度に『長珊聞書』の四分の一に相当する分量の翻刻をひととおり完成させたことを受けて、研究協力者たちとともに相互の翻刻稿のチェックに取りかかった。しかし、同書に多数書き込まれている朱点などがモノクロの紙焼き写真では判別不能であったため、思いの外チェックに難儀した。前年度に続き、陽明文庫で実際に調査する機会ももったが、分量が膨大であるだけに到底対応しきれないと考え、陽明文庫側と相談の上、カラー・デジタル画像を科研費により購入するという、新たな方針を立てることとした。その結果、年度末までにその交渉から手配まで済ませることができた。翻刻稿のさらなるチェックから入稿、校正、そして翻刻書(全四分冊のうちの第一分冊)の刊行は次年度送りとなった。 一方、『源氏物語』古注釈については、早稲田大学図書館蔵『源氏物語注』に引き続き、平成25年度の秋以降は、『河海抄』の諸本に注目して研究会活動を展開した。特に早稲田大学図書館九曜文庫蔵の片仮名書き『河海抄』は、大変珍しいもので、まずは「桐壺」巻の本文を主要他本と比較しながら翻刻を進めている。 そのほか、『源氏物語』の最終局面が語られる巻々の叙述と語り手の問題について、待遇表現から分析する論考を発表したほか、前年度の「ふみ」と「文」についての検討を発展させて、日本の和文における「文」の思想について探究しているが、その成果は平成26年度に論文化される予定である。 また、『源氏物語』および『うつほ物語』の諸本の問題と校訂のあり方について、これまでの研究状況を振り返り、積極的な校訂を考えてゆく可能性について、研究集会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
陽明文庫蔵『長珊聞書』の翻刻については、これまで紙焼き写真(モノクロ)によって全体の四分の一に相当する分量の翻刻(草稿)はできあがっている。その後、正確な翻刻を期すため、丁寧なチェックを進めていたが、多数書き込まれた朱点などの確認が困難であるため、陽明文庫での写本調査も複数名でたびたび行ってきた。しかし、分量が膨大であるため、朱点などの確認にはかなりの時間を要することとなった。 そこで、25年度後半には、陽明文庫側との相談を重ね、カラー・デジタル画像の撮影とそのDVD版作成について許可を得ることとなった。撮影からDVDの完成にいたるまでには数ヶ月を要したため、25年度中には翻刻のチェックを進められなかった。カラー・デジタル画像を入手してから翻刻の最終確認をする方が効率的で、かつ正確なものにもなると判断したからである。 一方、既に翻刻をひととおり終えた早稲田大学図書館蔵『源氏物語注』については、チェックも終わっているので、まずまずの進行状況といえる。 『河海抄』の検討については、まだ緒についたばかりではあるが、今後の新たな翻刻をも視野に入れつつ、計画を練っている段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
『長珊聞書』の翻刻チェックについては、カラー・デジタル画像により正確な作業ができるようになったので、今年度中には翻刻チェックを完全に終え、入稿、校正を経たのち翻刻書(四分冊中の第一分冊)の刊行に至るようにしたい。 早稲田大学図書館蔵『源氏物語注』については、本研究代表者が編者としていずれまとめる予定の『平安文学の古注釈と受容』第四集に掲載すべく、今後対応を進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、陽明文庫での『長珊聞書』の調査を数回行うことで、朱点などのモノクロ紙焼き写真では判別しがたい箇所を明確にする予定であったが、実際には確認すべき不明な箇所があまりにも多く、陽明文庫での数回の調査では到底解決しきれないということがわかってきたため、『長珊聞書』のカラー・デジタル画像を手配することとなった。その費用については平成25年度の秋からの相談を経て確定したのだが、当初予想していた額よりも少し安く済んだため、次年度使用額が生じることとなった。 翻刻稿についてのチェックは、研究協力者相互の協力を基本とするが、量が膨大であるため、当初の予定よりも研究補助員(RA)に担当してもらう部分を少し増やすことにして、次年度使用額の分をそれに充てることとする。
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