2011 Fiscal Year Research-status Report
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23520257
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
冨田 和子 椙山女学園大学, 生活科学部, 助教 (20155568)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 俳諧 / 雑俳 / 東海地方 |
Research Abstract |
本研究は、近世以降、現在までの東海地方の俳諧資料を収集し整理して、その特徴を明らかにすることを目的とする。特に、俳諧の盛んな地域である尾張・三河・美濃の資料を扱う。当該年度は、研究実施計画に基づき、主に個人所蔵の資料の撮影・複写を行った。 そして、その資料群の中から、まず、高浜のお高撰の俳諧会所本4部に着目した。これまで鈴木勝忠氏によって紹介された46部の興行時期を再検証した上で、新たに追加する4部の興行時期を推定した。それらは初期の俳諧会所本であると推定できた。そして、その中で、重要と思われる「はいかい正月集」「はいかい百戦もの語」抜書を翻刻紹介した。 早くから俳諧師を志した同世代の職業俳諧師である樗良・暁台に対して、高浜の廻船問屋主人であったお高は、いわゆる「旦那芸」の点者である。とかく「旦那芸」というと軽くみられる傾向があるが、安田文吉氏は、近世期における「旦那芸」は、それまで大名のものであった文芸が町人のものになった証であり、「旦那芸」であることが重要であると指摘される。そのようなお高が本格的に点者活動を始めたのは、会所の存在を強く意識し始めたと思われる「はいかい 角文字」・「はいかい みどりの衣」を披露した安永元(1772)年頃であることが窺えた。更に、題に「はいかい」と平仮名で角書するものはこの頃だけで、それ以後は「誹諧」と漢字を使用したことが推測でき、お高撰の俳諧会所本の特徴の一つが窺えた。また、末番句の配置から、当時すでに俳諧式目とは一味違った撰句基準が形成されていったことが窺えた。 次に、その会所本を彫らせた尾張国名古屋本町 角屋庄蔵についても言及し、更なる調査の必要性を指摘した。 更に、資料を収集する中で、名古屋で活躍した石橋庵真酔の、平成四年に整理されたと紹介した墓石・歌碑が、現在も残っていることがわかり、その調査を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「(2)おおむね順調に進展している」とするのは、以下の理由からである。 (1)俳諧史の研究において、散逸しやすく、手薄な遊戯的な雑俳を含む資料の、一部ではあるが、当該年度に予定した量よりやや多い量の撮影(自己撮影、業者撮影)を実施できた。(2)その資料群の中から、高浜のお高撰の俳諧会所本4部に着目し、これまで鈴木勝忠氏によって紹介された46部の興行時期を再検証した上で、新たに追加する4部の興行時期は、初期の俳諧会所本であると推定できた。(3)公表するためのデータ入力などの作業は滞っているものの、お高撰の俳諧会所本「はいかい 正月集」と「はいかい 百戦もの語」抜書の2点を翻刻し公表できた。(4)とかく「旦那芸」というと軽くみられる傾向があるが、安田文吉氏は、近世期における「旦那芸」は、それまで大名のものであった文芸が町人のものになった証であり、「旦那芸」であることが重要であると指摘される。この職業俳諧師ではない、高浜の廻船問屋主人であった、「旦那芸」のお高に着目し、お高が会所の存在を強く意識し、本格的に点者活動を始めた時期や、お高撰の俳諧会所本の特徴の一つを窺えた。(5)お高撰会所本の句の配列に着目し、末番句の配置から、当時すでに俳諧式目とは一味違った撰句基準が形成されていったことが窺え、東海地方独自の文化を生み出して行った過程を垣間見ることができた。(6)その会所本を彫らせた尾張国名古屋本町 角屋庄蔵についても言及し、更なる調査の必要性を指摘できた。(7)資料を収集する中で、戯作者として名古屋の文壇をリードし、狂歌作品の残る石橋庵真酔の、平成四年に整理されたと紹介した墓石・歌碑が、現在も残っていることがわかり、その調査を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度と25年度は、前年度に引き続き、当初の研究実施計画に基づいて、東海地方に散見する近世後期以降の俳諧・雑俳資料の収集と整理を行う。特に、研究目的で示した次の4年間の計画の中で、ア・イに、ウ・エを加えて作業する。 ア、個人所蔵の資料の撮影・複写を行う。イ、撰者・愛好者からの聞き取り調査を行う。ウ、尾張狂歌の影響関係を視野に入れて、俳諧関係者の狂歌資料を収集する。エ、地方の図書館・博物館所蔵の埋もれた俳書や引札類の収集と整理を行う。 ○具体的な作業内容は次のとおり。アについて、岐阜県・愛知県内在住の個人所蔵の資料(明治期の句集など80タイトル)を借用し、撮影・複写する。なお、個人蔵の資料の中には、撮影を外部の専門業者に委託する資料がある。イについて、岐阜県・愛知県内在住の愛好者に、聞き取り調査を行う。エについて、地方の公共図書館に埋もれた蔵書は、原本からの直接コピーはできないし、マイクロフィルムになっていないものが多い。そこで、複写を依頼する。 その他、データの入力作業などに学生アルバイトを雇用する。蓄積したデータなどをもとに、所蔵者の許可を得て、随時、翻刻・紹介を大学紀要などに投稿する。 26年度(最終年度)には、上半期は前年度に引き続き、研究目的で示した4年間の計画の中で、特に、エに重点をおいて作業する。その後、蓄積したデータなどをもとに、翻刻など活用できる形で公表する。その研究成果報告書を作成する。その他、データの入力作業、報告書の郵送関係作業などに学生アルバイトを雇用する。蓄積したデータなどをもとに、所蔵者の許可を得て、インターネット上ブログに発信する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度同様に、研究実施計画に基づき、主に資料の収集、撮影・複写を行う。先の「今後の研究の推進方策」の具体的な作業内容に照らせば、次のとおりである。 アについて、岐阜県・愛知県内在住の個人所蔵の資料(明治期の句集など45タイトル)を借用し、撮影・複写する。なお、個人蔵の資料の中には、撮影を外部の専門業者に委託する資料がある。内訳:基本料1,000円×6+撮影費160円×950コマ+梱包費1,000円×3+送料+消費税(概算170千円)を要する。イについて、岐阜県・愛知県内在住の愛好者に、聞き取り調査を行う。謝金(10千円×3)に、30千円程度を要する。 更に、地方の公共図書館に埋もれた蔵書は、原本からの直接コピーはできないし、マイクロフィルムになっていないものが多い。そこで、複写を依頼した場合、マイクロフィルム撮影を依頼することから経費を要する。内訳:基本料1,000円×3+(マイクロフィルム撮影費60円+紙焼き150円)×280コマ+梱包費1,000円×3+送料+消費税(概算70千円)。その他、コピー代(1枚10円×8,000)に、80千円程度を要する。 出張旅費は、岐阜県・愛知県内で、30千円程度を要する。例:星ヶ丘(勤務地)から多治見駅(地下鉄230+JR480)×2+日当1,100円=2,520円。その他、データの入力作業などに学生アルバイトを雇用する。時給820円で合計146時間、120千円程度を要する。 次年度に使用する予定の研究費が生じたのは、一部の書類不備により、当該年度に実施した業者委託の資料撮影費(183千円)の支払いが遅れたことと、購入を予定した文書画像文字検索ソフト(58千円)の納品が遅れたためである。前者は次年度4月に支払い、後者は、該当商品の購入を見合わせ、別なソフトを検討するか、資料の撮影・複写、又は購入に充当する。
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Research Products
(2 results)