2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520257
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
冨田 和子 椙山女学園大学, 生活科学部, 助教 (20155568)
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Keywords | 俳諧 / 雑俳 / 東海地方 |
Research Abstract |
本研究は、近世以降、現在までの東海地方の俳諧資料を収集し整理して、その特徴を明らかにすることを目的とする。特に、俳諧の盛んな地域である尾張・三河・美濃の資料を扱う。 当該年度は、研究実施計画に基づき、主に個人所蔵の資料の撮影・複写を行った。 次に、その資料群の中から、句会興行に不可欠であるとはいえ、興行後は不要になるため、残ることの少ない第一次資料である「第30回分 若竹応募綴」とその周辺の資料に着目した。これらから、東三河の豊川市に拠点をおいた狂俳結社、銀玗(かん)社が知新会の内紛をきっかけに新しい狂俳を求めて、大正7(1918)年、遅くとも翌年2月に知新会から独立し、3月又は5月から機関誌「若竹」を創刊したことがわかった。次に、この組織の構成や下部組織の存在、正社員になることはとても名誉なことで、先輩の推挙が必要であるという入会条件、大正10年2月当時の社員は23名、その社員が協力して運営する月並句会を、尾張地方で明治以降に行われた新しい興行方法である吟録ではなく、東三河で広く行われていた昔ながらの花巻方式で実施していたこと、新人役員への指導の様子、そして、「夢廼家圃 俳名披露 兼銀玕(かん)社新加入紀念 狂俳大会」をわずか19日間の準備で開催できるほど大きな組織力・機動力の良さが窺えた。更に、吟録を批判する点者がいるものの、東三河の愛好者たちは尾張地方の点者を点者として受け入れる懐の深さと句に対する深い愛情を持っていたことが窺えた。最後にその句会の興行手順などがわかる個所を紹介できた。 更に、前年度に調査を行った名古屋で戯作者・狂俳点者として活躍した石橋庵真酔の墓石・歌碑について、当該年度にまとめ、学会誌に発表することができた。当時名古屋で人気のあった、有名な真酔の墓石・歌碑が残っていたことは喜ばしいことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「(2)おおむね順調に進展している」とするのは、以下の理由からである。 ①俳諧史の研究において、散逸しやすく、手薄な遊戯的な雑俳を含む資料の、一部ではあるが、当該年度に予定した量よりやや多い量の撮影(自己撮影、業者撮影)を実施できた。②その資料群の中から、句会興行に不可欠ではあるものの、興行後は不要になるため、残ることの少ない第一次資料である「第30回分 若竹応募綴」とその周辺の資料に着目し、大正期に東三河の豊川市に拠点をおいた狂俳結社、銀玗(かん)社が知新会の内紛をきっかけに新しい狂俳を求めて独立した成立状況、機関誌「若竹」の創刊時期、組織の構成や下部組織の存在、正社員になることはとても名誉なことで、先輩の推挙が必要であるという入会条件、句会興行の運営方法は花巻であること、新人役員への指導、そして、銀玗(かん)社の大きな組織力・機動力の良さを指摘できた。③尾張地方の興行方法である吟録を批判する点者がいるものの、東三河の愛好者たちは尾張地方の点者を点者として受け入れる懐の深さと句に対する深い愛情を持っていたことを指摘できた。④「狂俳」誌の記事から、内紛のきっかけの一つに、点者の撰句態度に関わる問題、代吟問題が見え、「若竹」3巻2号には「狂俳上に於ける新派と旧派」「句作の悩みを味へ」などが載ることから、愛好者たちはとても真面目に狂俳に取り組み、楽しんでいたことを指摘できた。⑤雑誌などの記事を参考にしながら、多くの人々の心を捉え、心から求めた句作にも踏み込んだ更なる調査の必要性を指摘できた。⑥公表するためのデータ入力などの作業は滞っているものの、月並句会「若竹集」の興行手順などがわかる個所を紹介できた。⑦前年度に調査した名古屋で戯作者・狂俳点者として活躍した石橋庵真酔の墓石・歌碑について、当該年度にまとめ、学会誌に発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は、前年度に引き続き、当初の研究実施計画に基づいて、東海地方に散見する近世後期以降の俳諧・雑俳資料の収集と整理を行う。特に、研究目的で示した次の4年間の計画の中で、ア・イに、ウ・エを加えて作業する。 ア、個人所蔵の資料の撮影・複写を行う。イ、撰者・愛好者からの聞き取り調査を行う。ウ、尾張狂歌の影響関係を視野に入れて、俳諧関係者の狂歌資料を収集する。エ、地方の図書館・博物館所蔵の埋もれた俳書や引札類の収集と整理を行う。 ○具体的な作業内容は次のとおり。アについて、岐阜県・愛知県内在住の個人所蔵の資料(明治期の句集など35タイトル)を借用し、撮影・複写する。なお、個人蔵の資料の中には、撮影を外部の専門業者に委託する資料がある。イについて、岐阜県・愛知県内在住の愛好者に、聞き取り調査を行う。エについて、地方の公共図書館に埋もれた蔵書は、原本からの直接コピーはできないし、マイクロフィルムになっていないものが多い。そこで、複写を依頼する。 その他、データの入力作業などに学生アルバイトを雇用する。蓄積したデータなどをもとに、所蔵者の許可を得て、随時、翻刻・紹介を大学紀要などに投稿する。 26年度(最終年度)には、上半期は前年度に引き続き、研究目的で示した4年間の計画の中で、特に、エに重点をおいて作業する。その後、蓄積したデータなどをもとに、翻刻など活用できる形で公表する。その研究成果報告書を作成する。その他、データの入力作業、報告書の郵送関係作業などに学生アルバイトを雇用する。蓄積したデータなどをもとに、所蔵者の許可を得て、インターネット上ブログに発信する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度同様に、研究実施計画に基づき、主に資料の収集、撮影・複写を行う。先の「今後の研究の推進方策」の具体的な作業内容に照らせば、次のとおりである。 アについて、岐阜県・愛知県内在住の個人所蔵の資料(明治期の句集など35タイトル)を借用し、撮影・複写する。なお、個人蔵の資料の中には、撮影を外部の専門業者に委託する資料がある。 内訳:基本料1,000円×5+撮影費160円×850コマ+梱包費1,000円×2+送料+消費税(概算150千円)を要する。イについて、岐阜県・愛知県内在住の愛好者に、聞き取り調査を行う。謝金(10千円×3)に、30千円程度を要する。 更に、地方の公共図書館に埋もれた蔵書は、原本からの直接コピーはできないし、マイクロフィルムになっていないものが多い。そこで、複写を依頼した場合、マイクロフィルム撮影を依頼することから経費を要する。内訳:基本料1,000円×2+(マイクロフィルム撮影費60円+紙焼き150円)×150コマ+梱包費1,000円×2+送料+消費税(概算40千円)。その他、コピー代(1枚10円×5,000)に、50千円程度を要する。 出張旅費は、岐阜県・愛知県内で、30千円程度を要する。例:星ヶ丘(勤務地)から多治見駅(地下鉄230+JR480)×2+日当1,100円=2,520円。その他、データの入力作業などに学生アルバイトを雇用する。時給820円で合計122時間、100千円程度を要する。 次年度に使用する予定の研究費が生じたのは、当該年度に実施した業者委託の資料撮影(見積額 約352千円)が、業者の都合により遅れたためである。次年度4月に納品を受けた後、支払う。
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Research Products
(3 results)