2011 Fiscal Year Research-status Report
私家集の書誌学・文献学による解析を通じて基底部から新しい和歌史を構築する
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23520258
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
小林 一彦 京都産業大学, 文化学部, 教授 (30269568)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 私家集の書誌 / 私家集の伝本 / 私家集の注釈 / 私家集と他の撰集 / 私家集と歌壇史 / 私家集の表現 / 明日香井和歌集 / 鴨長明集 |
Research Abstract |
私家集について、特に影印公開された冷泉家時雨亭文庫蔵私家集を各家集諸伝本の基幹に据えて、文献学的な研究を進めている。 まず、『新古今和歌集』の撰者として活躍した飛鳥井雅経の私家集「明日香井和歌集」については、鎌倉期の古写本である冷泉家時雨文庫蔵本(重要文化財)と日本大学総合学術センター蔵本(ただし原本ではなくデジタル画像データ)の比較校勘を入念に行い、その調査結果をもとに、「明日香井和歌集」の書誌学的、文献学的研究を深化させることができた。その研究の成果については、すでに原稿化を終え、論文集の中の1論文として収録掲載されることが決定、刊行を待つばかりとなっている。 次いで、冷泉家時雨亭文庫所蔵の私家集の内、王朝女流歌人の私家集について、歌人の伝記にも目を配りつつ、古典籍としての価値・意義にいて考察を行い、「小野小町集」「殷富門院大輔集」「周防内侍集」について、研究をまとめ、その一部を一般読者にもわかりやすく文章化し、冷泉家時雨亭文庫の機関誌「志くれてい」に発表した。 また、平安時代末期に成立した、いわゆる「寿永百首家集」のうちの1冊である、「鴨長明集」について、その書誌学的な研究と、和歌の内容について考察し、その成果を研究発表や講演において広く社会に還元した。研究発表は、「鴨長明集」の和歌を冷泉家時雨亭文庫蔵本をもとにした善本テキストにより、詠歌の特徴について分析を加え、『伊勢物語』からの影響を考察した。講演については、東日本大震災と長明の代表作「方丈記」との関係について、自然科学分野の科学的なデータにも目配りを怠ることなく、古典の読み直しを行い、講演した。その成果を講演録として論文にまとめることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請時には東北を中心とする東日本の図書館・文庫が所蔵する諸伝本の原本調査を行う計画であった。しかしながら、前年度末の3月11日に東日本大震災が発生するにいたり、それが未曽有の大災害であったため、資料を所蔵する機関の被災も甚だしく、しばらくの間、調査を延期せざるを得ない状況に陥ることとなった。そのため、東北地方の伝本調査は次年度に回す、また国文学研究資料館等が所蔵するマイクロフィルムや紙焼き写真などの閲覧により代替するなど、研究の遂行に支障のないようにつとめた。なお、2月に入ってから、東北地方の図書館・文庫でも復旧が進んでいるところには赴いて、臨機応変に調査を行った。 具体的な家集にしぼって、掘りさげて調査研究を行ったことが、かえって成果を上げることに結びついたと考えている。現在では、その調査結果をもとに、「明日香井和歌集」の書誌学的、文献学的研究をいっそう深化させることに取り組んでいる。その研究成果については、すでに原稿化を終え、論文集の中の1論文として収録掲載されることが決定、刊行を待つばかりとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、各私家集(個人の歌集)の書誌データを、調査により、なるべく多く収集・分析し、その全体像を明らかにするようにつとめるとともに、あわせて1つ1つの家集の個性について、むしろ書誌学的な状況を鍵に、それを糸口として内容まで明らかにできればと企図している。 それには、これまで以上に原本調査を重視して行う。先入観を排除し、なるべく目の前に存在するテキスト、またそのテキストを載せているいわば乗り物であるところの古典籍類、それらに徹底して向き合うことが肝要であると考えている。その上ではじめて、古典籍類からの、あらたなメッセージを取り出せるのではないか、と思量する。 私家集の系統を、冷泉家と二条家、また「真観本」さらには「資経本」「西山本」「擬定家本」などの群というとらえ方で、再考察できないかと考えている。そのような視点からの、あらたな私家集系統分類・伝本分類の再構築をめざす。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、東日本大震災の影響により、閲覧調査が思うようにできなかった東北地区を含め、重点的に各地の図書館・文庫を訪問し、原本の閲覧調査につとめる計画である(なお、その際にはあくまでも被災地の復興が第一であり、無理に閲覧をお願いすることはさし控え、現況には十分な注意を払いたい)。 飛鳥井雅経の「明日香井和歌集」、鴨長明の「鴨長明集」の2つの家集については、引き続き目配りを怠らずに研究を進めるが、それ以外の諸家集についても、善本とは何かというテーマを忘れることなく、順次、調査を進め、また本文の比較校勘を重ねるつもりである。 中世において、定家本とは異なった系統の、きわめて重要な伝本群をなす真観本については、「三十六人集」の視点から、調査を進める予定である。原本調査はもちろんのこと、御所本の複製影印本1セットなどを有効に活用し、あわせて国文学研究資料館等が所蔵するマイクロフィルム・紙焼き写真なども参照しながら、中世の時代に通行・流布した私家集の正体に肉薄できるように研究の深化をはかる予定である。 また、「鴨長明集」が含まれる「寿永百首家集」群についても、成立事情やあわせて三十六集とされる家集構成に関し、あらためて考察を加えてみたい。
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Research Products
(7 results)