2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520266
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐野 宏 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (50352224)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
寺島 修一 武庫川女子大学, 文学部, 准教授 (60290409)
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Keywords | 字余り / 歌体 / 萬葉集諸本 / 次点 / 和歌の定型 |
Research Abstract |
本年度は前年度に見直した計画に従って、古葉略類聚抄・廣瀬本の字余り句の分布調査を行った。元暦校本は書き入れの判断は分担者と協議を重ねたが、なお存疑例が多く、データとしては暫定的なものになった。しかし、本年度で次点期諸本の大半の調査を終えた。ここに古今和歌六帖での調査結果とあわせて俯瞰すると、次点期諸本の訓にはことさらに語原形を用いる場合と、本文からはやや距離のある訓を記す場合が認められる。これらは「古語」もしくは「古歌」の記憶、類歌から下点された字余り句と考えられる。 つまり、次点期諸本の字余り句には、少なからず享受された古歌の記憶とそれに伴う古語意識の反映が認められる。その上で、萬葉集で観察される字余り句のA群とB群の分布が先鋭化するということは、次点期諸本が萬葉歌を当時における「古歌」の歌体――ある種の文体様式――の枠組みをあてて読み解こうとしたことを示している。 これを明らかにするには、古今和歌集や後撰和歌集などの勅撰集のあり方と対照させる必要があるが、本年度の検討の結果、字余り句はその生成原理としての音韻論的な特徴とともに、歌句の享受という相でも捉える必要があることが明らかになった。先行歌享受の結果としての字余り句というのは類例分布から推せるように思われる。ただ享受の側面を除いたところでも、字余り句分布がA群B群に分かれるのか否かが次の課題として浮かび上がった。これはたとえば、人麻呂歌集にみられる字余り句の分布傾向が後撰歌人の投影した古歌の姿の一端としてあるかもしれないという問題にも関連している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は代表者の転出にともない、新発見があった前年度のように分担者との緊密な議論をしつつ進めることができなかったことは反省点である。今年度に予定していた招聘講師との研究会開催が、代表者と分担者の日程が合わず、次年度に延期にせざるを得なかった。しかしながら、調査自体は計画通りに進捗しており、判断の難しい元暦校本のデータが暫定的で未完になったものの、概ね順調に進捗し、震災の影響で見直した計画では今年度目標の75%の達成である。この中で字余り句からみた萬葉歌の享受相が新たに見出された点は一つの成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
計画通り萬葉集の西本願寺本を含めた新点諸本、古今和歌集、後撰和歌集の諸本の字余り句分布を調査する。これによって当初目的の萬葉集の字余り句に関わるデータベースが形成できるものと考える。元暦校本についてはなおいっそうの検討が必要だが、他の時点諸本との検討を行う。今年度、明らかになった享受という観点を重視し、歌学書類や人麿集などの萬葉諸本以外に登載された萬葉歌の字余り句分布調査を行う。これらのデータをまとめて古典研究会(広島県立大学)、もしくは皮留久佐學志會(大阪市立大学)での口頭発表を行う。あわせて次点期諸本の字余り句の整理を行い、現状の成果を論文発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、講師招聘旅費を含めた謝金の支出を行う。今年度は代表者の転出により、学生アルバイトによるデータの確認校正が充分にできなかったため、分担者と連携をはかりながらデータ校正に充分な費用と時間を掛ける。ただ当初計画では、次点本訓の字余り句データベースをWeb公開するにあたり、検索ソフトを添付する予定であったが、業者見積に照らしてこの点を見直し、CSVファイル形式での公開を目指す。公開時期と掲載ホームページは、概ねの結論を得た時点で分担者と協議して決定する。
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