2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520270
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Research Institution | Kobe City College of Technology |
Principal Investigator |
土居 文人 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (20300600)
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Keywords | 語源研究史 / 文化史 |
Research Abstract |
江戸時代最初の語源辞書である松永貞徳著『和句解』に関する研究成果を査読付き学術雑誌に発表し、また、『和句解』翻刻出版準備のための索引作成を行った。また、前年度から継続して江戸時代日本語語源研究書のリスト作成と体系化を行った。 『和句解』については、前年度以来の研究により、「見出し項目が、寛永期に出版された横本『二躰節用集』におそらく草書本節用集から語彙を補足した現存しない一節用集から抄出されている可能性が高いこと」「語源説や「神語」の概念が、清原宣賢『日本書紀抄』〈後抄本〉の影響下にあること」「『塵添アイノウ鈔』『袖中抄』など中世の知識が『和句解』の語源説に取り込まれていること」を実証し、「『和句解』の「日常生活用語を含めた和語を網羅的に集め、和文の語釈を記す」現代の国語辞書につながる記述形式が、中世の節用集の項目と歌学書の和文の注釈の総合によって形成されたものであるという仮説を提示した。『和句解』の「中世と近世をつなぐ書物」としての文化史的意義を明確にした。また、本研究の過程で、寛永期に刊行された易林本系の『二躰節用集』『真草二行節用集』の系統関係を解明する手がかりとなる指標項目「将(もつて)」(も部)を発見するなどの成果があった。 江戸時代語源研究書については、指標となる語(「東・西・南・北・春・夏・秋・冬・文」など)を定め、語源説を集積・比較する作業を行った。その結果、『和句解』に記された『日本書紀抄』の語源説が、貝原益軒の語源辞書『日本釈名』を経由して定説化し、幕末さらに大槻文彦『大言海』まで継承されていることが明らかになった。この現象は、江戸時代のいわゆる堕落史観に起因するものと思われる。江戸時代の小説などに記された語源説については、江戸時代前期噺本の語源説の調査に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『和句解』の翻刻と索引がほぼ完成し、語源説引用知識一覧・語源解釈用語一覧の草稿を執筆した。また、研究成果は平成24年12月に査読付きの学術雑誌に発表した。 江戸時代語源研究書リストについては、先行論文と文献資料がほぼ集まり、清原宣賢『日本書紀抄』などの中世の和学書に語源説の記されている語を指標語として設定し、江戸時代語源研究書における語源説の展開を調査することで、語源説の動向についてある程度把握することができた。「平成24度研究実施状況報告書(今後の推進方策)」に記した、江戸時代初期の惺窩・貞徳・羅山らによる和語の研究グループの存在の可能性については、新たな手掛かりは得られなかった。今後も留意し継続して資料を集めるべき問題であろう。 江戸時代文学に表現された語源説については、『噺本大系』により、近世前期上方の噺本(軽口本)について調査を継続中である。
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Strategy for Future Research Activity |
「収支状況報告書」の「次年度使用額」は、7,079円である。これは、平成24年度に使用した旅費・文献複写費・書籍購入費などの合計が、平成24年度に使用できる研究費の金額よりも若干少なくなったため生じた金額である。平成25年度に、文献複写・書籍購入などの目的で使用する。 平成25年度は、中世と近世をつなぐ書物として『和句解』を位置づけ、『和句解』語源説に引用された知識の一覧と、『和句解』語源解釈用語の一覧を作成する。また、翻刻の出版を目的として、充実した索引の作成と、解説の執筆を行う。 江戸時代の語源研究書のリスト作成(主として電子データの蓄積)については、指標語の語源説の動向の調査を進め、江戸時代日本語語源研究の体系化を完成させる。研究成果は、今年度中に学会発表と論文発表を行う。 江戸時代文学に記された語源説については、『噺本大系』で調査を行い、文学研究・文化史に有用な情報を集め、可能ならば、紀要などの学術雑誌で発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費は、一部を、東京出張の旅費として使用する。出張先は、東京大学本郷キャンパス・国会図書館・国文学研究資料館である。東京出張の内容は、東京大学文学部国語研究室所蔵及び国会図書館蔵の『和句解』の諸本調査(翻刻出版のため)、江戸時代語源辞書・語源研究書のうち原本で内容を確認する必要のある重要なものについての調査である。また、一部を、国会図書館所蔵及び国文学研究資料館所蔵のマイクロ資料のコピー費用として使用する。また、一部を、本研究に必要な国語学国文学関連の研究書の購入費として使用する。
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