2014 Fiscal Year Annual Research Report
歌仙絵の資料調査とその成立及び流布に関する総合的研究
Project/Area Number |
23520271
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
寺島 恒世 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (80143080)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 三十六歌仙絵 / 歌合絵 / 時代不同歌合 / 番いの意識 / 書式 / 左書き / 百人一首絵 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度に実施した研究は、初年度以降の調査研究を踏まえた総まとめとして、論文を執筆するともに、その内容を国際的に公表すべく第14回EAJS国際研究集会に応募し、採用されて研究発表を行ったことである(当初予定の調査費は海外研究発表旅費に変更した)。 公表した成果は、三十六歌仙絵において系統を異にする佐竹本系と業兼本系諸本の本源的な差異につき検討を加え、その両歌仙絵の性格の異なりを導いたことである。 佐竹本系と業兼本系の最も本質的な差異は、歌人を二人ずつ番える際に、向き合う形式を意識するか否かに存し、後者に顕著となる流れは業兼本固有の独創に発していた。左方・右方からなる歌合を意識化して、画面上に強く左右対称の明示を企図したのであり、それが徹底化すると、向かって右に登場する左方歌人の歌を、左から右への行移りで書く「左書き」という日本書記史上例のない書式が誕生する。しかもその書式は、中国書画に類似する形式ながら、歌合を起源とすることにおいて、向き合う身体方向に「声」が発せられる実態を可視化する工夫と認められ、極めて注目される。 さらに中世扁額歌仙のうち、白山神社本・和爾賀波神社本等にも左書きが現れ、特に後者は、神殿壁面に掲載される図像として、神に奉仕する機能が付与されたものと判断される。それも京都での扁額書式とは異なり、近江・讃岐国等に固有の書式と見ることが可能であり、中央と地方の差異も知られる。 なお、歌仙絵研究においては、「百人一首絵」の絵画化が『百人一首』成立時点か否かが残された課題である。賛否両論が拮抗する状況において、その絵が業兼本の絵を介して、「時代不同歌合絵」との共通性を有することが謎を解く鍵となる。「時代不同歌合絵」が有する二歌人対比の構図を『百人一首』自体が有しており、両作の成立の近さと対抗意識に照らせば、絵の相関・類似は当初成立説の論拠となることが導かれる。
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