2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520272
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
中村 康夫 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (60144680)
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Keywords | 栄花物語 / 本文 / 諸本 / 調査 / 北村季吟 / 自筆 / 抄出本文 / 絵入版本 |
Research Abstract |
平成24年度は栄花物語の本文調査と刊行に向けての基礎データ入力とを平行する予定で進めたが、研究としての本文調査にはある程度の広がりが出てきたこともあり、予定以上の成果までは出せなかった。また、基礎データ入力にも予想以上の時間がかかり、全体としては進捗率は95%程度かと思われる。 ただ、予定の中には季吟の古典学全体のデータベース化まで当初の研究計画書では入れていたが、これは、予算、時間の両面の事情から省略することにした。 本文調査については、学習院本、中村本それぞれについて進めなければならないが、学習院本については、注目される代表的な場所にとどまらず、四〇巻全体に十分な検討を行いながら進めている。また、中村本については、絵入版本と中村本との間の驚くほどの一致と、逆に、それにもかかわらず存在する相違について、かなり緻密な検討を行いながら進めている。 基礎データ入力は研究補助者によって進めているが、最終的な出口としての出版を担当する出版社がさまざまな可能性の中で揺れている部分もあり、特に学習院本については難しい問題にも突き当たっている。 また、中村本の調査に当たり、北村季吟については自筆と思われる資料と架蔵本の突き合わせを行うために、さらに資料を追加購入するなどした。人ひとりの文字にどこまで特徴を認められるかは、調べれば調べるほど難しい面があるが、少なくとも、中村本を季吟の筆を伝えるものと認定することは、可能ではないかという方向を見いだしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、北村季吟自筆本の可能性を持つ中村本の調査と、新しく発見された学習院本の本文の実態について調査を行い、調査した結果を、出版等の方法によって学界に公開しようとするものである。 中村本の調査については着々と予定通りに進んでおり、筆跡の調査についても資料を買い足すなどして精度を上げているところである。現在は、学会での研究発表等、具体的な準備に入ろうとしている。 学習院本の調査については以下のように進めている。 2012年度の進展は、①学習院本『栄花物語』翻刻及び考察の論文化、②宮内庁書陵部所蔵の伴信友校本、新見正路校本の確認、③学習院本と同系統とみられる古筆切の確認、④前年度調査結果の再検討の4点である。まず、①は全40巻のうち、巻29まで完了した。2013年度で巻40まで完了する予定である。学習院本に関する書誌的情報及び新たな系統の本文としての価値は、学会誌『中古文学』(2012年6月・中古文学会・査読付き)誌上において発表した。次に②に移る。宮内庁書陵部所蔵の校本調査の必要性がなぜ生じたかというと、これら2校本の検討を通して学習院本と同系統本文が存在したのか否か、さらには近世期に流布したと思しき本文の実態を確認する必要に迫られたからである。これは2013年度も継続して調査するべき課題であり、まだ結論は出ていない。③は、田中登氏・藤井隆氏・故久曽神昇氏が所蔵する全部で5葉の古筆切が学習院本と一致することがわかった。詳細は近日中に論文化する予定である。④は、国立民俗歴史博物館本、早稲田大学図書館所蔵本について、古本系の特徴を有するも、かつて松村博司が分類した本文系統にはおさまらない特殊な本文と見られ、より検討を要することがわかった。これも25年度の課題として継続して調査していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
学習院本についても中村本についても基本的に今まで進めてきた方法をそのまま伸長させるしかない。 学習院本については調査対象を広げつつも、調査すべき勘所について把握できてきているので、効率よく対象を絞り、その中でより厳密な調査へと深化させていくことになると思われる。本文をどういう形で研究成果とともに研究者の元に届けるかについては、書籍の形をとるには出版社との合意形成を急がなければならず、インターネットによる配信については、研究代表者が3月で定年を迎えることなども絡んでくるので時間が通常よりかかると思われる。また、当然のことながら、所蔵者学習院大学の了承も得なければならない。いずれにも時間を要することが予想されるが、手続き等は着々と進めていきたいと考えている。 中村本については、一文字一文字の検討も必要なことは必要なのだが、むしろ徐々に論全体の中で、どういう可能性が考えられるか、どういう可能性が強いかを論証していくことが求められてくるので、調査と論証を並行して進めていくことになる。そういう意味もあって、機会が見つかれば学会発表も考えているが、最低でも論文にはまとめて発表する予定である。また、中村本については出版社からの刊行も考えているが、出版社の事情などが絡んで、本科研の研究期間終了後になる公算が大となっている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
学習院本、中村本いずれについても研究を仕上げるべき最終年度になるため、研究成果の形成に直接関わる研究補助者によるデータ入力はやや多めに予定する必要がある。 学習院本については、今までの成果を踏まえつつ、調査対象を絞る中で、国文学研究資料館においてマイクロフィルムによって収集された資料の調査を増やし、遠方の調査を少なくする形にしていくことで時間を有効に生かし、確実に成果の公表へと向かいたいと考えている。したがって、旅費が減り、入力者の謝金が増える。 中村本については、研究の精度を上げるためにやはり季吟自筆の資料をもう少し増やして進める必要があり、資料の購入費を増すことが必要と考えている。あとは、研究費としては、やはり研究成果の公開と直接関わる研究補助者によるデータ入力に予算を向ける必要がある考えている。 当初は、データ入力に必要なパーソナルコンピュータについて、手元にあるものは性能も著しく落ちていることもあり、新しく買い調える必要があるとしていたが、処理速度は著しく落ちているものの、入力本位の使用にはなんとか堪えられることが分かったため、その分を資料購入費等に向け直すことにした。
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