2011 Fiscal Year Research-status Report
想像力の作用を基盤に据えた20世紀以降のジャンル論的批評と物語理論の展開
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23520285
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
鈴木 聡 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80154516)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 物語理論 / 批評理論 / 想像力 / 言説 / 徴候的 |
Research Abstract |
本研究においては、過去の文学研究、文学批評において伝統的に確立してきたものと見なされる精読の方法を踏まえ、それをさらに徹底化し精緻化する試みをつうじて、これまで説明困難と考えられてきたテクストにもじゅうぶん対処できるようにし、より広汎な意味における物語言説の分析に応用し得るものとすることをめざしている。さらにその過程においては、主として虚構テクストに関連するジャンルの問題と、人間の想像力の機能をめぐる一般的理論を再検討し、それらのうちに今日的意義を見いだすことも副次的な成果として期待される。 上記のような目的に則り研究代表者(鈴木聡)が単独で遂行する計画であるため、研究代表者のもとに基礎資料をなるべく網羅的かつ継続的に蒐集することが必要となってくる。それらの資料の蓄積にもとづき、またそれらを詳細に読解する日常的な努力をつうじて、着実に研究を進捗させ、各段階において論文を執筆し発表することとした。具体的にいえば、平成23年度には「来世と彼岸──ヴラジーミル・ナボコフの「最果ての土地」」と「回想と解離──ヴラジーミル・ナボコフの「フィアルタの春」」という2篇の論文を発表した。これらの論攷において取りあつかったヴラジーミル・ナボコフの短篇小説が徴候的な実例となっているような過去、現在、未来にかんする人間の意識、とりわけそれらに連続性と統一性を賦与しようとする精神の働きが、想像力の機能を解き明かす手順として避けて通れないものであることが明らかになってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年中に2篇の論文を発表するとともに、「ヴラジーミル・ナボコフの長篇小説──その陰翳と紋様」と題する研究発表を行なった(日本ナボコフ協会全国大会、平成23年5月28日)。この発表をとおして、研究代表者(鈴木聡)が過去数年にわたって取りあげてきたヴラジーミル・ナボコフの長篇小説(未完成作品である『ローラの原型』を除く全作品)にかんする一連の研究の概要を示すとともに、将来における研究の可能性も明確化させることができたものと思われる。 もともと長篇小説の冒頭の一章として構想されたナボコフの「最果ての土地」に関連させていえば、そこにこめられているメッセージとは、個々の主体による想像力の行使以外に真理へといたる途はないということにほかならない。しかしながら、虚構テクスト中の登場人物には想像力をじゅうぶん活用する自由が許されていないのはたしかである。このようなテクスト内に仕組まれた限界性にたいして作者がどこまで自意識的であるか、登場人物がついに明察に達することのできない「真の現実」にわれわれ読者はどのように立ち会うことになるかが今後検討されるべき課題であるといえるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
五十数篇あるヴラジーミル・ナボコフの短篇小説のうちには想像力理論と物語理論の全体的構想に重大な示唆を与える材料となるものがいくつか見いだされるものと思われる。それらの検討と並行して、より大きな範囲を対象とした系譜学的考察も必要となってくるため、ナボコフ以外の文学者の作品にも眼を向ける。作品の選定にあたっては、とりあえずナボコフがコーネル大学その他において行なった講義(授業題目「ヨーロッパ文学の巨匠たち」など)のさいに取りあげたものを参照する。当然のことながら、それらの作品にかんする研究書、研究論文も多く存在するため、必要に応じて、伝記、書簡、日記などの基礎的資料を含めて網羅的かつ系統的に入手する計画を立案する。 専門分野以外の知見を積極的に取り入れる必要があることから、研究目的達成のために有益と考えられる日本ナボコフ協会の全国大会、研究会のほか、日本英文学会その他の学会にも出席する。年代の古い文献、稀覯書などについて、他機関所蔵の資料を閲覧、複写する場合があるが、複写にあたっては、著作権にじゅうぶん配慮し、流出することがないよう最大限注意する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究目的、研究方針などに照らしてみて、研究経費中の設備備品費の多くは、図書ならびに その他の資料(今後の研究の展開によっては、映像、音楽なども含む)の購入に充てることとする。資料の蒐集、分析、論文作成などの作業を続行するほか、効率的なデータ処理も必要となるため、パーソナル・コンピュータなどの機器を頻繁に用いるが、その有効な活用のためには最新のソフトウェアの導入が不可欠となってくる。映像資料、音声資料の録音・録画、再生のための機材を購入する場合もあり得る。ロシア語その他の言語にかんして、専門家の助言を仰ぐ場合、その形態と条件、時間的制約などに応じて謝金を支払うこととする。学会出席や、入手困難な文献等の借覧のために研究経費中の国内旅費を充てる。 平成23年度中に刊行予定であった図書が出版延期となったため発生した未使用分(10,980円)は、継続注文となっている当該図書購入のため平成24年度経費と併せて使用することとする。
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