2012 Fiscal Year Research-status Report
想像力の作用を基盤に据えた20世紀以降のジャンル論的批評と物語理論の展開
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23520285
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
鈴木 聡 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80154516)
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Keywords | 物語言説 / ジャンル / 虚構テクスト / 想像力 |
Research Abstract |
本研究においては、主に英語圏における既存の文学研究、文学批評において伝統的に確立してきたものと見なされる精読の方法をじゅうぶんに踏まえたうえで、それをさらに 徹底化し精緻化する試みをつうじ、従来の研究においては説明困難と考えられてきたテクストにもじゅうぶん対処できるようにするとともに、狭義の文学的テクストにとどまらないより広汎な意 味における物語言説の分析に応用し得る方法の構築をめざしている。さらにその過程においては、主として虚構テクストに関連するジャンルの問題と、人間の想像力の機能をめぐる一般的理論にも吟味を加え、それらのうちに今日的意義を見いだすことも副次的な成果として期待される。 上記のような目的に則って研究代表者(鈴木聡)が単独で遂行する計画であるため、前年度に引き続き、研究代表者のもとに基礎資料をなるべく網羅的かつ継続的に蒐集することを心がけた。それらの資料の蓄積にもとづき、またそれらを詳細に読解する日常的な努力をとおして 、着実に研究を進捗させ、その各段階において論文を執筆し発表することとした。具体的にいえば、平成24年度には「虚構と構造──ヴラジーミル・ナボコフの『マンスフィールド・パーク』論」と「偶然と色彩──ヴラジーミル・ナボコフの「ある日没の細部」」という2篇の論文を発表した。これらの論攷は、過去数年間の論攷において解明してきた長篇小説作家としてのヴラジーミル・ナボコフの特質を踏まえながらも、いっぽうにおいては、彼が正典的なテクスト(この場合はジェイン・オースティン)にたいして示した批評的見識を手がかりとして、研究の広がりをめざし、他方においては、主人公の意識ならびに視野に局限された短篇小説において、そのような限定性を最大限に利用した、映画的手法をはじめとするかずかずの実験的試みが認められることを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度中に発表した2篇の頓文によって、前年度までよりも範囲を広げた研究の進展を示すことができた。ナボコフがコーネル大学において行なった講義(授業題目「ヨーロッパ文学の巨匠たち」など)のうち、ジェイン・オースティンの長篇小説『マンスフィールド・パーク』にかんする議論を取りあつかった論文では、批評家としてのナボコフの独自性を焦点としながらも、オースティンの作品の内容それ自体に深く踏みこんで論じることにより、これまでに研究対象としてこなかった十九世紀の文学作品に触れる機会を得た。 また、 五十数篇あるヴラジーミル・ナボコフの短篇小説のひとつ「ある日没の細部」を取りあげた論文では、初期の小品ではありながらも、この短篇小説のうちに、後年のナボコフの作品に確実に引き継がれることになる構成要素(ブライアン・ボイドのいう「めぐり合わせと運命のアイロニー」)が認められることを指摘した。主人公の生涯最後の二日間に限定され、個人の意識と知覚に制約されたテクストでありながら、特定の色彩に重点をおいた絵画的描写(ナボコフが愛好するクロード・ロランが想起される)、写真的というよりは映画的なものに接近した、細部の陰翳や運動にたいする拘りこそが、このテクストの密度そのものをかたちづくっている点がとくに重要である。 こうして判明してきたように、ナボコフの短篇小説にあっては、入念に仕組まれた制約ないしは限界性こそがそのテクストの美的特質となっているといえよう。物語理論の今後における展開という観点からいうならば、虚構上の登場人物の視点から物語られたテクストにおける重層性、超越性はどのようにして可能となるかが課題となるといえるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
想像力理論と物語理論の全体的構想に重大な示唆を与えるものと期待されるヴラジーミル・ナボコフの短篇小説の主要なモティーフ、テーマ、頻出するパターンなどについてはかなり明らかとなってきたものと考えられるので、さらに研究を続行させる。十九世紀以降における長篇小説ジャンルの進化を念頭におきつつ、他の文学者の作品もより多く取りあげるべきであろう。ナボコフがコーネル大学において行なった講義(授業題目「ヨーロッパ文学の巨匠たち」など)のうちから、すでにジェイン・オースティンの長篇小説『マンスフィールド・パーク』を対象として選んだので、順番からいえば、彼がその次にあつかったチャールズ・ディケンズの長篇小説『荒涼館』に分析を加えることになる。 今後の研究計画に関連する研究書、研究論文は多く存在するため、必要に応じて、伝記、書簡、日記などの基礎的資料を含めて網羅的かつ系統的に入手する必要がある。 専門分野以外の知見を積極的に取り入れる必要があることから、研究目的達成のために有益と考えられる日本ナボコフ協会の全国大 会、研究会のほか、日本英文学会その他の学会にも出席する。年代の古い文献、稀覯書などについて、他機関所蔵の資料を閲覧、複写する場合があるが、複写にあたっては、著作権にじゅうぶん配慮し、流出することがないよう最大限注意する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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