2011 Fiscal Year Research-status Report
ジョイスとベケットの小説における語りとコンテクストの研究と物語論の再構築
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23520296
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
道木 一弘 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (10197999)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 物語論 (narratology) / ジョイス (James Joyce) / ベケット (Samuel Beckett) / コンテクスト (Context) |
Research Abstract |
本研究の目的は、ジョイスとベケットの小説における語りの特質及びその歴史的・社会的コンテクストとの関わりを、最新の物語論の動向を視野に入れながら、調査研究することにある。 初年度の23年度においては、ベケットの最初期の作品『蹴り損の棘もうけ』(More Pricks than Kicks, 1939)を精読し、これとジョイスの短編「痛ましい事件」(A Painful Case)との関わりを、語りと人物描写及び倫理的問題の観点から分析し、その成果をIASIL(国際アイルランド文学研究協会)第35回年次大会(7月18日~22日、ベルギー王国リューヴェン市)において "Belacqua's Painful Case" というタイトルで発表し、質疑応答を行った。さらに、この発表稿を日本語で加筆修正し「ベラックァと身体の「痛み」について- サミュエル・ベケットの More Pricks than Kicks に関する一考察」として愛知教育大学『外国語研究』45 に発表した。尚、この大会では物語論に関連した研究発表もあり物語論の動向を知る上で有意義であった。 作品の精読としてはジョイスの『ウェイク』(Finnegans Wake, 1939)とベケットの『並みには勝る女たちの夢』(Dream of Fair to Middling Women, 1992)及び『ワット』(Watt,1944)に取り掛かり分析を行っている。また両者及び物語論に関する文献等は計画通り収集が進んでいる。特に物語論については、自らが主宰する名古屋ナラトロジー研究会を23年度に3回(8月20日,11月5日,3月11日)開催し、ナラトロジーに関する論文を読み、その意義と問題点について討議を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の土台となる作品の精読、特にベケットの作品の精読が順調に進んおり、最初期の作品である『蹴り損の棘もうけ』に関する研究成果を海外で発表し論文にまとめることができた。また、参考文献についても第二次大戦関連の文献以外はベケット及びジョイス関連を中心に順調に収拾でき、物語論の最新の動向も文献と海外での学会参加によってある程度達成できた。よって、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度も当初の予定通り、ジョイスとベケットの作品研究(精読)及び物語論の最新動向調査を進めながら、作品のコンテクストに係る海外での調査を充実させることで研究の推進を図る。またその成果を紀要等で発表する予定である。 ベケットの作品としては、『ワット』の精読を終え、その語りの特質を明らかにする予定である。合わせて、ジョイスの『フィネガン』の精読を続け、研究ノートを作成する予定である。 海外での調査としては、ベケットがレジスタンスの一員として潜伏し、『ワット』の執筆を行ったフランス南部の村ルシアンを訪ね現地調査を行う。また、大戦前後に作家活動の中心として居住していたパリの縁の場所を訪ね現地調査を行う予定である。こうした調査結果をもとに、年度末には簡単な報告書をまとめ、紀要等で発表する予定である。 自らが主宰する名古屋ナラトロジー研究会では、引き続きナラトロジーに関する最新の研究論文(David Herman, Basic Elements of Narrative, 2009)を読み研究を行う。 最終年度にあたる25年度についても、当初の予定に従って、二人の作家の作品精読と研究を継続し、合わせて文献の内容精査と整理を行う。海外での現地調査については、23,24年度で調査できなかった場所から特に必要な場所に絞ってこれを行う予定である。こうした研究・調査から予想される成果に基づき、25年度以降二年以内を目途に海外での研究発表及び論文発表を行うことを目標としている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額 (約30万円)については、23年度に計上していた物語論の学術誌の定期購読ができなかったこと、また第二次世界大戦にかかわる参考文献等を十分に集められなかったことが主な理由である。よってこの点を次年度において追加的に実施することで次年度使用額を有効に消化できると考えている。この繰り越しを別にすれば、24年度は当初の予定通り、物品費と旅費として70万の研究費を使用する予定である。
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Research Products
(2 results)