2011 Fiscal Year Research-status Report
シェイクスピア演劇における勢力均衡思想に関する考察
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23520300
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣田 篤彦 京都大学, 文学研究科, 准教授 (40292718)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 英文学 / シェイクスピア / 勢力均衡 |
Research Abstract |
本年度行った研究実績の概要は以下の通り。(1)『リア王』における勢力均衡について、主として『レア王』との比較において考察した。特にリアの勢力均衡への努力とその破綻の様相を検討することで、この劇が勢力均衡思想の特徴を指摘した作品であることを明らかにした。平成23年7月17-22日に行われた第9回World Shakespeare Congressにおけるパネル‘International Relations in Shakespeare’s Histories’にて‘The Balance of Power in King Lear’s Kingdoms’と題する研究発表を行った。ここで得られた知見を加えて改訂した論文がこの学会の成果発表論文集に掲載されることが決定した(2013年刊行予定)。(2)上記パネルへの参加を通じて『ヘンリー8世』における勢力均衡思想の表象に着目するに至り、‘The Balance of Power in Henry VIII’と題する論文を平成24年4月4日-7日に行われる第40回アメリカ・シェイクスピア学会大会においてDiana Henderson教授(MIT)が主宰するセミナー‘Foreign Policies in Shakespeare’s Time’に提出した。(3)『トロイラスとクレシダ』におけるギリシア・トロイ両国の対立と力の均衡の考察から、トロイ戦争の前奏曲となっているヘシオネ略奪の表象を考察し、平成24年3月20日-22日に開催されたフランス・シェイクスピア学会において‘The Memory of Hesione: Intertextuality and Social Amnesia in Troilus and Cressida’と題する研究成果発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は主として『リア王』についてその材源となったテクスト類との比較を通じて、勢力均衡思想の表象を考察する計画であったが、『リア王』に関しては平成23年7月の国際学会における研究発表、ならびに、この研究発表を通じて得られた知見を加えた論文の作成並びに提出、掲載決定といった一連の過程を通じて、当初目的としていた一定の成果を挙げることが出来たと言える。特に、この論文がpeer reviewを経て国際学会の成果論文集に掲載されることが決定したことは、本年度の研究が一定の評価を受け、また更なる国際的な批評を受けられる状況が整った点で意義がある。『リア王』についてはこの論文に対する批評を受けて、一層の研究を進めることになる。 更に、本年度の研究を通じて、エリザベス朝末期に書かれたと考えられている『トロイラスとクレシダ』、ならびにジェイムズ朝期に書かれた『ヘンリー8世』における勢力均衡思想の重要性に思い至り、その分析を進め、前者については平成24年3月に研究発表を行い、後者については同年4月の学会におけるセミナーに論文を提出できたことは、やはり本研究の国際的な評価という点で意味のあることである。これらを通じて平成24年度に主として実施する計画である『リア王』以外のジェイムズ朝演劇との比較に関しても既にその基盤となる成果が上がりつつあるものと評価できる。上記から、平成23年度の達成度についてはおおむね良好であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は主として以下の2点から研究を推進する。(1)『ヘンリー8世』における勢力均衡思想。(2)『トロイラスとクレシダ』における神話世界とバランスの概念。共に、研究発表を行った学会における議論を通じて得られた知見を加えて考察を進める。特に、(2)に関しては発表後に、Yves Peyre教授(Paul-Valery大学)から同教授が中心となって進められているオンライン・プロジェクトであるA Dictionary of Shakespeare’s Classical Mythologyへの参加を招請されたため、このプロジェクトに研究成果の一部を発表することになる。また、8月に行われる国際シェイクスピア学会におけるセミナー‘Source Work’(オハイオ州立大学Luke Wilson教授主宰)でも更なる研究成果を発表する。両者ともに『リア王』、『アントニーとクレオパトラ』、『シンベリン』といったジェイムズ朝期のシェイクスピアの演劇作品、また、シェイクスピア以外の劇作家の作品との比較を行う。 これらと並行して、平成25年度に主として実施する計画である、現実政治において勢力均衡思想が有力な外交方策となった三十年戦争以降、特に英国に関しては王政復古以降の演劇作品とシェイクスピアの劇作品との比較の準備を開始する。この点に関しては、シェイクスピアとネイハム・テイトの『リア王』に加えて、今年度考察を開始したシェイクスピアの『トロイラスとクレシダ』とジョン・ドライデンによる同劇の王政復古後の書き換えを対象とする予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は4月にアメリカ・シェイクスピア学会(ボストン)、8月に国際シェイクスピア学会(英国ストラットフォード・アポン・エイヴォン)において、それぞれセミナーに参加し研究成果を発表し、国際的な評価を仰ぐ。 アメリカ・シェイクスピア学会に関しては開催が4月初めとなったため、研究費の次年度使用が必要となった。また『ヘンリー8世』に関する考察を進める中で必要性が認識されるに至った明星大学所蔵の第一二つ折本への書き込みに関する研究を進めるため、同大学図書館に赴き資料調査を行う。更に、シカゴ大学のDavid Bevington教授によるレヴューを受け、併せて、シカゴにあるNewbury Libraryにて資料調査を実施する(以上、旅費)。 このようにして収集した資料を整理し、国際的な批評を受けられる形で英文の研究成果を継続的に発表していくため、引き続き英語の校閲を受ける(人件費・謝金)。英文学、ヨーロッパ史、外交・政治関連の図書を継続的に収集すると共にデータベース化を進める(物品費)。ジェイムズ朝時代のシェイクスピア劇作品における勢力均衡思想の特徴を比較考察する上で特に重要な文献であり、上記Bevington教授が中心となって編纂が進められているBen Jonson全集の刊行が平成23年度から平成24年度に遅れているため、物品費に関しても次年度使用の研究費が生じた。関連図書とあわせて本全集を平成24年度の研究費にて購入する予定である。
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Research Products
(2 results)