2012 Fiscal Year Research-status Report
シェイクスピア演劇における勢力均衡思想に関する考察
Project/Area Number |
23520300
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣田 篤彦 京都大学, 文学研究科, 准教授 (40292718)
|
Keywords | 英文学 / シェイクスピア / 勢力均衡 |
Research Abstract |
本年度行った研究実績の概要は以下の通り。 ①前年度から始めた『ヘンリー8世』における勢力均衡思想の表象に関する考察を‘The Balance of Power in Henry VIII’と題する論文にまとめ、第40回アメリカ・シェイクスピア学会大会におけるセミナーにて発表した。ヘンリー8世の外交政策に関してはフランシス・ベイコンにより勢力均衡政策の典型として指摘されているが、『ヘンリー8世』における外交関係に関する言及については、勢力均衡の観点からの検討がなされてこなかった。本論文はこの視点からこの劇について論じた点で独創的なものといえる。 ②前年度に引き続き『トロイラスとクレシダ』におけるギリシア・トロイ両国の対立と力の均衡についての考察し、その成果の一部を‘The Aunt of Hector: Medieval Narrative Romances as Sources of Troilus and Cressida’と題する論文にまとめ、第35回International Shakespeare Conferenceにおけるセミナーにて発表した。本論文はエリザベス朝末期の現実政治の影響が色濃く表れているとされるこの劇の国際関係を分析する試みの一環であり、ジェイムズ朝期に書かれた劇との比較を目指している。 ③上記①②の成果を基に『アントニーとクレオパトラ』におけるローマとエジプトの関係を考察し、その一部を第5回European Shakespeare Research Association大会におけるセミナーにて発表することが決定している。‘Emasculation and Miscegenation’と題するこの論考では地中海世界における国際関係について考察することで、ジェイムズ朝期の勢力均衡思想とこの劇の関係を検討する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は前年度に主たる考察の対象とした『リア王』と比較する形で、『ヘンリー8世』、『トロイラスとクレシダ』、『アントニーとクレオパトラ』における勢力均衡思想の考察を進めた。前二者については平成24年度中に学会において研究成果の一部が発表され、そこで得られた知見を基にさらなる考察を進めている。また、『アントニーとクレオパトラ』については平成25年度に研究成果の発表をすることが決定している。さらに、前年度主として研究対象とした『リア王』における勢力均衡思想に関する考察を含む論文が、国際的な評価を得ている電子ジャーナルに掲載されることが決定した。上記のように、本課題の研究成果については、いずれも国際的な批評が得られる場で発表し、または発表が予定されているため、概ね順調に進展していると判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、平成24年度までの2年間に行って来た研究を更に発展させると共に、主として以下の2点から研究を推進する。 ①過去2年間に行ってきたシェイクスピアの演劇テクストにおける勢力均衡思想の表象を他のシェイクスピア劇と比較する。特に『ハムレット』と『ヴェニスの商人』に着目し、前者においてはクローディアスの外交政策に見られる勢力均衡思想を、後者についてはこの劇における経済を軸とした国際関係と勢力均衡思想の関連を考察する。 ②17世紀後半の国際情勢ならびに現実政治における勢力均衡政策の発展の中で、王政復古期の劇テクストが勢力均衡思想をどのように表象しているかを考察する。特に王政復古期におけるシェイクスピア劇の書き換えに勢力均衡思想がどのような形でみられるかを考察する。特に『リア王』、『トロイラスとクレシダ』、『アントニーとクレオパトラ』の改作について比較検討を行う。 これらと並行して、3年間全体の研究成果を積極的に発表していく。過去2年間の研究成果については出版ならびに電子ジャーナルへの掲載が決定しているものがあるが、これらについて最終的な形を整える。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度はEuropean Shakespeare Research Association大会においてセミナーに参加し研究成果を発表し、国際的な評価を仰ぐ。また、『ヘンリー8世』に関する考察を進める中で必要が認められた明星大学所蔵の第一二つ折本への書き込みに関する研究をさらに進めるため、前年度に引き続き同大学図書館に赴き資料調査を行う。あわせて、British Libraryにおいて資料収集、Bristol大学においてDr John Leeと研究成果発表についての打ち合わせを行う(以上、旅費)。このようにして収集した使用を整理し、英文の研究成果を継続的に発表していくため英語の校閲を受ける(人件費・謝金)。英文学、ヨーロッパ史、外交・政治関連の図書を継続的に収集すると共にデータベース化を進める(物品費)。
|
Research Products
(4 results)