2011 Fiscal Year Research-status Report
ルネサンス演劇における演技と観客の情緒的・身体的反応の関連性についての研究
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23520301
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中村 未樹 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (00324872)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ルネサンス演劇 / 演技 / 観客反応 / 身体 / 情緒 |
Research Abstract |
ルネサンス演劇における演技と観客の情緒的・身体的反応の関連性について考察することを目的として、平成23年度は以下の研究を行った。1.16世紀末の英国の舞台における演技がいかなるものであったかについて、そしてその変遷の様相について考察するために、本年度は特にパーソネイションと呼ばれる演技に関する一次資料・二次資料の収集と分析を行った。16世紀末において登場したとされるこの演技様式について、その典型的な例とみなされる悲劇俳優リチャード・バーベッジの演技に関する記録を収集・調査し、そのスタイルの特徴とそれが引き起こした観客反応について調査した。さらに、パーソネイションの演技スタイルを相対的に捉えるために、バーベッジと共に当時のイギリスの舞台の人気俳優であったエドワード・アレンの演技の在り方について同時代の文献を調査しながら考察した。2.役者の演技が観客の情緒と身体に及ぼしうる影響を考察するための糸口として、弁論術の文献を調査した。まず、ルネサンス期の弁論術の規範となった古代ローマの弁論術に関する論考について、特にキケロとクインティリアンの著作を調査し、彼らの議論において想定されている弁論家から観衆への感情の伝達の様式について確認した。この研究の過程において、2011年7月にプラハのカレル大学において開催された第9回World Shakespeare Congressのセミナー、‘The Body-Mind in Shakespeare's Theatre’に参加し、セミナー・メンバーとの議論を行うことによって他の研究者の見解を参考にすることができた。また、途中成果は本学会セミナーにおいて発表することができた。最終的に、以上の調査をまとめる形で、論文「1590年代後半のシェイクスピア作品における悲嘆の所作について」を大阪大学英米学会の機関誌『英米研究』第36号に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度においては本研究はおおむね順調に進展していると考える。その理由として以下の二点が挙げられる。1.本研究は中世後期から17世紀初頭までの期間における舞台上の演技の特徴とその変遷の模様について検討することを目指しているが、今年度においてはこの期間において特に核心となる転換期を構成していると思われるイギリスの16世紀末の演技の具体的な状況をまず確認することが出来た。また、リチャード・バーベッジとエドワード・アレンという二人の役者を比較検討していく過程において、前者が後者のスタイルの影響下において演技していた可能性を確認するに至った。実際、アレンが演じた役柄をバーベッジも演じているため、バーベッジはアレンとその演技に対して何らかの意識を抱いていたはずであり、また観客の意識においてもこの二人が一つの役柄において重ね焼きされていたとも言える。このように考えた場合、この両者の間に影響・模倣の関係を想定することが可能になり、結果として、イギリスの初期近代における演技の変遷の系譜を図式化していくための論の基礎となる部分を構築することができたため。2.本研究は役者の演技と観客の情緒的・身体的反応の関連性の解明を目的としているが、研究実績の概要の箇所において記しているように、国際シェイクスピア学会において開かれたシェイクスピア演劇における身体と精神の関係性をテーマとして採り上げたセミナーに参加することによって、情緒と身体との連関をめぐる理論的認識をさらに深めることができた。特に、セミナーのメンバーが議論の出発点としていた認知科学の観点からからの方法論を研究することによって、この問題に対する自分のアプローチを多角化することが可能になった。結果として、演技と観客の情緒的・身体的反応の関連性をめぐる次年度以降の研究において、理論的な観点を導入することが可能になったため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究成果をさらに発展させる形で、平成24年度はルネサンス期における演技の型とスタイルの継承、及びそれに関連した観客反応についての調査を行う。具体的な作業は以下の三点となる。1.まず、役者たちの身体表現の型(喜びや怒りなどの感情を表すもの)について主に16世紀、17世紀の一次資料を中心に調査を進め、その種類と特徴を特定できるように努める。そして、舞台で用いられたそれらの型に対する観客反応が実際にどのようなものであったかについて当時の観客についての一次資料を収集・調査しながら検討していく。2.また、初年度において考察したリチャード・バーベッジのパーソネイションのスタイルがその後いかなる形で継承されていたかについて、16世紀末から17世紀前半までにおいて活躍したバーベッジの後輩役者とその演技に関する一次資料を参照しながら調査していく。3.これらの作業の結果を基盤とした上で、ルネサンス時代の英国において、継承・反復としての演技の型とスタイルがどのように観客に受容されていたかについて、同時代の劇場と観客の文献を調査しながら考察していく。 以上に述べた一次資料の収集と閲覧のため、イギリスの研究機関(バーミンガム大学シェイクスピア研究所とシェイクスピア・バースプレイス・トラストを予定している)への研究調査を行う。また、研究の途中成果は国内の学会(第51回シェイクスピア学会への参加を予定している)において口頭発表として発表し、参加者との意見交換も行って議論の修正を行う。最終的に、ルネサンス期における型と演技スタイルの継承と観客反応に関する論文を作成する。また、年度末においては、当年度の研究について総括的見直しを行い、翌年度の研究の推進方法についての確認も行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、物品費に関しては、今年度の研究遂行において必要となるルネサンス演劇の役者と観客、及び劇場経験に関する二次資料の図書、並びに関係する映像資料の購入のために使用する。 消耗品費については、収集した資料の整理において必要となるファイル、文具類の購入のために使用する。昨年度の研究費の残額はこの消耗品費用に使用する。 旅費に関しては、一次資料の閲覧と収集のためのイギリスにおける研究調査に外国旅費として使用する。現時点においては、ストラットフォード・アポン・エイボンのバーミンガム大学シェイクスピア研究所とシェイクスピア・バースプレイス・トラストでの調査を予定している。また、研究の途中成果を国内の学会で発表するための国内旅費としても使用する。現時点では、日本シェイクスピア協会主催の第51回シェイクスピア学会(於 秋田大学)における研究発表への参加を予定している。 謝金に関しては、今年度は作成した英語論文原稿のネイティブ・チェックを行ってもらうために使用する。
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Research Products
(2 results)