2011 Fiscal Year Research-status Report
アンドリュー・マーヴェル研究―人間関係と表現技術―
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23520303
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
吉中 孝志 広島大学, 文学研究科, 教授 (30230775)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 連合王国 |
Research Abstract |
アンドリュー・マーヴェルをめぐる人間関係を明らかにするという目的を持つ本研究の初年度は、彼の代表作の一つである「庭」を再考することから始めた。「馥郁たる孤独」を味わうための庭空間は、逆説的ではあるが実は良好な人間関係を醸成するための狭間、もしくは広場としての性質も有していたことを突き止めることが出来た。17世紀の庭が、たとえば、ジョン・イーヴリンの庭に代表されるような、超党派的、脱イデオロギー的な人間関係をつむぎだす媒介的な空間と成りえた可能性を証明するための仮説を構築することができたことは大きな成果であるといえる。次年度は、この庭園概念を土台としてマーヴェルの人間関係における具体的な個人、フェアファックス卿、およびウォートン卿との関係を調査する。 兵庫県立大学の石倉教授を代表とするイギリス・ガーデン研究会での共同研究との接点として、同研究会および17世紀英文学会において「マーヴェルの庭と17世紀の庭」と題した口頭発表を行った。これは、17世紀の英国、ヨーロッパの庭空間における特徴的な要素であるオウィディウスの『変身譚』と彫像、トピアリー、機械仕掛けの噴水、果樹園での栽培技術に関する調査を Early English Books on Lineを用いて国会図書館において行った成果である。特に17世紀におけるメロン栽培の実際は、マーヴェルの庭の位置がブリテン島の南部にあったと想定する現在支配的な学説を覆す一つの根拠となりうる知見へと繋がった。 連合王国への出張調査においては、庭概念の持つ普遍的、哲学的意義を探るためだけでなく、庭園史の上から17世紀の庭と庭空間がつむぎだす人間関係の問題を逆照射することを目的として、18世紀終わりから19世紀始めにかけての最も充実した資料を残すウィリアム・ワーズワスの庭をテクストと湖水地方に復元された庭の両面から調査することを開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
マーヴェルの詩作品「庭」に関する研究は、当初の計画では次年度以降に想定していた。しかし、学際領域横断的研究グループであるイギリス・ガーデン研究会(代表者:兵庫県立大学環境人間学部教授、石倉和佳)との連携の中で、植物学的な知見に関しての文献調査を前倒しする必要性が生じた。その結果、英国での栽培北限などに関する知識を得、特に「庭」の中で言及されている「メロン」栽培に関する知見を得たものの、一方で、マーヴェルの庭がウォートン卿の館の庭であったという説を検証、もしくは否定する議論の一環として、英国バッキンガム州の Winchendon 及び Wooburn での地誌資料、植生に関する資料を調査するには至らなかった。さらに、庭空間と人間関係との普遍的性質を解明するために、調査は、湖水地方に復元されたワーズワスの庭という当初の想定外領域へと踏み込まざるを得なかった。 また、本来の初年度計画では、William Davenant周辺の人物たちの相関図を構築しつつ、彼がロンドン塔に監禁されていた間に、王党派への背信が疑われる表現をしているのかいないのかを考察すること、John Hall に関する調査資料の読解に多くの時間をかけ、マーヴェル作品との間テクスト性を探りつつ、ホールを中心とする人脈を整理する予定であったが、これも次年度以降に譲らざるを得なくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画3年目にあたる平成25年度にサバティカル制度による在外研究を行う予定となった。基盤化されて融通が利くようになった資金を、この3年目の海外調査に集中させることで、遅れている研究計画のうち、英国バッキンガム州の Winchendon 及び Wooburn での地誌資料、植生に関する資料調査、およびthe Racovian Catechism の翻訳を中心とするHull Central Library, MS ‘Sermons &c of the Rev. Andrew Marvell’ の閲覧調査を行い、 さらに新たな課題となった湖水地方に復元されたワーズワスの庭に関する調査をもこの3年目に行う。 本研究計画の中で当初限定した3人、John Hall, William Davenant, the Lord Whartonのうち、24年度は、初年度に行う計画であったように、先の2名について調査を行う。国会図書館での Early English Books on Line を中心とする資料閲覧によって、スタンリー・サークルの一員であり、マーヴェルの ‘To His Coy Mistress’ に示唆されたミレニアリズムとの関係からも Samuel Hartlib との繋がりと合わせて、John Hallの著作物を読み直し、さらに、マーヴェルとの個人的な関係を考え直すために、先の科学研究費補助金による研究で吉中が進めてきたWilliam Davenant の Gondibertに関する分析をまとめる必要がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度にサバティカル制度による在外研究を行う予定となったため、次年度の予算の一部を翌年度に繰越し、残りを国内での調査、学会出張、および文献収集の費用とする。
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