2012 Fiscal Year Research-status Report
アメリカン・ルネッサンス文学にみる旅の表象と旅行文学の系譜
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23520306
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
城戸 光世 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (10351991)
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Keywords | アメリカン・ルネサンス文学研究(アメリカ) / 旅行文学(アメリカ) |
Research Abstract |
平成24年度は、アメリカン・ルネサンスの作家たちのヨーロッパ旅行記に焦点を当て、彼らの環大西洋的な想像力やその著述の特徴を研究した。まずはホーソーンの妻ソファイア・ピーボディの作家としての側面について、2012年5月25日日本大学で開催された日本ナサニエル・ホーソーン協会第31回全国大会におけるワークショップ「ピーボディ姉妹とホーソーン―ヨーロッパと中南米への視座」の中で、「Notes in England and Italy―旅行記作家としてのSophia Peabody Hawthorne再評価」と題する研究発表を行って分析した。またその直前には、『ピーボディ姉妹』の著者メーガン・マーシャル女史とともに福岡大学にて5月20日ワークショップ「Recontextualizing the Hawthornes: What European Experiences Taught Them in the Age of Transatlantic Cultural Exchanges」を開き、こちらでもソファイア・ピーボディについての発表を英語にて行った。ソファイアについてはアメリカでは研究が進んでいるものの、日本ではこれまでほぼ研究がされていなかったため、これらの発表は高い注目を集めた。またアメリカ人女性初の海外特派員フラーのヨーロッパ報告を分析した「共和国幻想-マーガレット・フラーのヨーロッパ報告」を『環大西洋の想像力』(彩流社)にて、またホーソーンのイタリア旅行記を分析した「ロマンスの廃墟/廃墟のロマンス――ホーソーンのイタリア旅行記にみるアメリカの未来図」を『カウンターナラティヴから読むアメリカ文学』(音羽書房鶴見書店)にて、また「もう一つのファミリー・ロマンス――ハウスキーピングの物語として読む『七破風の家』」を『ロマンスの迷宮』(英宝社)にてそれぞれ論文の形で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である平成23年度は、広範囲にわたる資料の収集及びその分析にもっぱら時間を取られたため、成果としてはほとんど出せなかったが、2年目の平成24年度はそれらをもとに、日本語と英語による二回の研究発表、及び三冊の共著出版に携わり、そのうちの二つでは編集も務めるなど、その研究成果を発表する多くの機会に恵まれた。特に、分担者となっている別のグループ科研ではあるが、アメリカン・ルネサンスの時代における女性作家たちに詳しく、『ピーボディ姉妹』の著書でよく知られており、最近もマーガレット・フラーの伝記を上梓したメーガン・マーシャル氏を、アメリカから日本に招聘することができ、彼女との交流によって貴重な知見を得ることができたことは大きな成果であった。その著書を翻訳刊行する作業を通じて、ピーボディ姉妹についての知識を深めることができ、ホーソーンの妻としてのみもっぱら日本では知られてきたソファイア・ピーボディの作家としての側面を研究発表等で紹介できたことは、日本における新たなアメリカン・ルネサンス研究の可能性を示すこととなったように思われる。概ね、本年度は、論文等の刊行によって、ホーソーン、フラー、ソファイア・ピーボディの当時のイタリア旅行の実態とその記録について順調に研究を進めることができたといえる。ただ、平成24年度後半は、産休育休のために大学を休職していたため、その間国内外での資料収集や研究者同士の交流といった研究活動にほぼ従事できなかったのが残念な点である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はアメリカン・ルネサンス作家たち、なかでもホーソーン、ソファイア、フラーのイタリア旅行記に焦点を絞って研究を進めてきたが、次年度は、近年アメリカでの評価が進むソファイア・ピーボディの中南米からの旅行記『キューバ日記』もまた取り上げ、当時のアメリカと中南米との関係、またアメリカ人の中南米への旅行の実態などについての調査を進めるとともに、彼女のこの中南米旅行記におけるその超絶主義的な語り(ナラティヴ)の特徴の分析を行いたい。また、当時他にイタリア旅行記を残した作家として、ジェイムズ・フェニモア・クーパーやハリエット・ビーチャー・ストウらもおり、これらの作家たちのヨーロッパ旅行記もまた取り上げ、彼らがヨーロッパや自国アメリカを見る視点や語りの相違などの分析を行う予定である。具体的な成果発表の計画としては、次年度はまず、6月の松山における中四国アメリカ文学会でのシンポジウム「カウンターナラティヴから読むアメリカ文学」を司会することが決まっている。また研究成果の発表としては他に、トランスアトランティックな活躍をしていた19世紀女性作家に関する論集、アメリカン・ルネサンス文学研究の新しい展望を示す論集の二つを計画しており、さらには、翻訳書『ピーボディ姉妹』の次年度中の刊行を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は育休をとったため、後半は一切研究費の執行ができず、研究費の多くを次年度に回すことになってしまった。次年度は、様々な作家たちの19世紀の旅行記や当時の旅行の実態について国内で書籍として手に入るものはできるだけ収集する予定である。しかし19世紀の資料は絶版のものや図書館等にないなど、資料自体の入手もしづらく高額となる。また国内にいては手に入りにくい資料が多い。そのため、アメリカやヨーロッパ(特に当時アメリカ人旅行者にとって人気のある旅行目的であったイギリスやイタリアなど)あるいは中南米といった現地での資料収集は欠かせない。また課題とする研究の範囲も幅広いため、国内外の研究者との交流によって知見を得る必要もあり、国内外での勉強会・研究会・学会大会などへの出席も必須である。それらの場で研究成果を積極的に発表するための国内旅費が必要である。次年度はまず、6月の松山における中四国アメリカ文学会でのシンポジウム司会のための、国内旅費、また研究成果の発表として、二つの論集への論文所収と翻訳書の出版を計画しており、その出版費用に研究費を一部使用する予定である。
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Research Products
(5 results)