2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23520317
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Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
海老澤 豊 駿河台大学, 法学部, 教授 (90298307)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 18世紀英文学 / 英詩 / 牧歌 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度となる今年度は二つの目標を掲げて研究に勤しんだ。まずは前年度の積み残しであるルネサンス期イタリアの牧歌研究で、ダンテの牧歌風書簡詩、ペトラルカの『牧歌集』、ボッカチオの『牧歌集』、マンチュアヌスの『青春』などを読み解いた。彼らの牧歌には当時の政治的・宗教的な騒乱が暗い影を落としており、詩人たちは牧歌的ペルソナに仮託して、政敵や異なる宗派の高僧たちを糾弾した。また彼らの個人的な葛藤、桂冠詩人になりたいという望み、恋人との悲しい離別、宗教的生活に入ることへの不安なども重要な主題となっている。いずれもアレゴリーを多用し、諷刺的な筆致が大半を占めていることが特徴である。彼らの牧歌はスペンサーに強い影響を与え、宗教的な主題を取り入れること、現実的な政治状況を諷刺することなどが英国の牧歌に多く見られる結果となった。 また当初の研究計画にはなかったが、スペンサーと18世紀詩人の空白を埋めるべく、17世紀英国の牧歌を新たに取り上げた。フレッチャーの『漁夫牧歌』は英国で最も初期に属する変形された牧歌の一つである。またマーロウの「恋する羊飼いから恋人へ」に端を発し、ダンやヘリックに受け継がれた牧歌的な抒情詩にも目を向けた。さらにミルトンのパストラル・エレジー「リシダス」と、マーヴェルの「草刈り人」を歌い手に据えた一群の牧歌を読み解いた。両者の牧歌にはテオクリトスやウェルギリウスの影響が垣間見られるが、当時の社会情勢を踏まえた新たな牧歌を生み出そうという意識も認められる。 かくして5年間の研究期間で、古典牧歌、近世の牧歌、18世紀英国における牧歌論争、さまざまに変形された牧歌群(地方色牧歌、牧歌風バラッド、都会風牧歌、漁夫および釣魚牧歌、異国風牧歌、戦争牧歌、反奴隷牧歌など)を概観することになった。この成果は近いうちに『葦笛の詩神 英国十八世紀の牧歌を読む』として公刊する予定である。
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Research Products
(1 results)