2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23520320
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
中野 春夫 学習院大学, 文学部, 教授 (30198163)
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Keywords | イングランド演劇 / エリザベス朝 / シェイクスピア / 社会的弱者 / 浮浪者 |
Research Abstract |
最終年度において本研究は一連の社会史研究の成果を調査し、社会階層の区分に起因する社会問題を指摘したうえで同時代の男性がどのような社会不満あるいは不安・恐怖を抱いていたかを確認した。そのうえで上記のカテゴリーに該当する貧困者の社会的イメージを演劇作品の台詞において調査する。調査にあたっては「(大酒で)鼻が赤い]や「体(息)が臭い」など身体的特徴に注目することにより、男性貧困者に付与される負のイメージを網羅的に収集した。 また最終年度は、23年度と24年度に得られた研究成果を同時代の社会背景から発展的にまとめることを課題とした。従来の社会史研究が指摘する通り、本研究が対象とする時期のイングランドは社会的流動性が歴史上最も高く、貧富の格差が著しく拡大した社会である。現実世界では社会上昇を実現するものが数多く出現する反面、社会の最底辺あるいはその枠外へと転落する悲劇も多かった。喜劇において大出世(玉の輿)、悲劇において没落(婚姻トラブルによる転落)を描いた演劇はまさしくこの社会を映す鏡であった。 エリザベス朝演劇において社会的弱者に該当する登場人物が数多く登場すること自体、演劇のフィクション世界が現実世界の社会問題を投影していたことを示している。最終年度では、2年間の調査で得られた劇作家と観客が共有する貧困者の社会的イメージがこの時代の貧困対策問題と具体的にどう関わり、どのような社会的側面を映し出していたのかを分析したうえで、その成果を『学習院大学文学部研究年報』第60号で公表した。
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