2013 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀イギリス小説における「違法性」の表象の分析
Project/Area Number |
23520321
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
永富 友海 上智大学, 文学部, 教授 (60305399)
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Keywords | 売春婦 / 私生児 / 19世紀イギリス小説 / 結婚 / 伝染病法 / 堕ちた女 |
Research Abstract |
本研究では、結婚と相続を主要テーマとしてきた19世紀イギリス小説が、他者を取り入れる結婚制度をいかに内面化してきたかを、身内/他者のレトリックに着目して分析することで、イギリス小説の新しい見取り図を描こうとしてきた研究代表者の10年以上にわたるプロジェクトの欠落を埋め、その完成を目指すことを目的としている。そのために本研究が焦点を当てたのは、身内と他者のあわいに立つ「私生児」と「娼婦」である。 まず「私生児」と「売春」に関して、その歴史的意義づけの確認をおこなった。通時的なアプローチとしては、18世紀まではbastardという概念でとらえられていた「私生児」がillegitimateに代わっていく過程が、1834年の救貧法改正案のなかの私生児をめぐる条項の分析を通して、「相続」の問題と密接に関係していることを炙り出した。一方売春については、19世紀中期に制定された「伝染病法」のもとに売春を囲い込み、正当化しようとする、主として男性中心のイデオロギーと、この法律の廃止を求める女性運動の展開が、ジェンダー、階級、セクシュアリティといった側面において、どのように複雑な力の動きを孕みつつ社会的な広がりを見せていったのかを、ジュディス・ウォーコウィッツの『売春とヴィクトリア朝社会』を参照しつつ、理論的枠組みの再整理をおこなった。 上記の理論の枠組みを念頭に置きつつ、「私生児」と「娼婦」という社会的言説が、小説の言説とどのように呼応し合っているかを検証するために、ディケンズの関わった社会運動、とりわけ売春婦をはじめとする「堕ちた女性たち」の救済活動とその記録を詳細に辿り、そこで駆使される身内のレトリック―「姉妹」「娘」―が、彼の自伝的小説 David Copperfield における空白や謎を読み解くための鍵となっていることを例証した。その成果は、2014年5月に出版予定である。
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Research Products
(6 results)