2012 Fiscal Year Research-status Report
ワイルド受容の系譜―日本と英語圏諸国との比較研究―
Project/Area Number |
23520322
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
日高 真帆 京都女子大学, 文学部, 准教授 (90407619)
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Keywords | 比較文学 / 比較文化 / 英米文学 / 演劇学 / Performance Studies |
Research Abstract |
本研究の「研究の目的」を達成するための本年度の「研究実施計画」に則して、平成24年度は以下のような研究実績を挙げることができた。 第一に、国内外のワイルド研究や演劇研究の動向の把握に努めると共に、日本のみならずカナダやアイルランドにおける劇場等での現地取材を含め、研究課題の関連資料の収集・分析を行うことができた。また、ワイルド劇の受容の場として、19世紀後半から現代に至るまでの日本の演劇事情の調査研究を進め、その際、特に島村抱月が日本におけるワイルド受容の初期に如何なる貢献を果たしたのかを追究した。このような研究の一方で、ワイルドによる原作の研究も進め、多角的な研究に努めた。 以上の研究成果の一端は、共著『越境する文化』(英光社、2012年)において、単著論文「女優の死ーSibyl Vane と Lady Alroy からの考察ー」(PP.59-68)として発表した。また、平成24年7月30日から8月3日までカナダのコンコルディア大学で開催され た International Association for the Study of Irish Literatures (IASIL) の国際大会において “Performing Wilde: Performative Engagements With and Within Wilde” と題する研究発表を行った。前者はワイルドによる異なるジャンルの作品の比較研究であり、後者はパフォーマンスの要素に着眼してワイルドの原作や翻案作品を分析したものである。いずれも本研究の骨子に関わる研究成果と言え、次年度以降の研究活動の礎としても意義深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三年計画による本研究の主たる目的は次の二点である。第一の目的は、日本と英語圏諸国におけるワイルドの受容状況の比較研究を行うことである。その比較対照により、日本におけるワイルド受容の特徴をも浮き彫りにする。第二の目的は、日本におけるワイルド劇の受容史を構築することである。その際、従来日本で注目度が低かった喜劇作品の受容にも重点を置き、より均衡の取れた受容史の構築を目指す。また、演劇に焦点を当てながらも、ワイルドの戯曲以外の作品受容にまで視野を広げてこそ、ワイルド劇自体の受容の全貌が明らかになるため、ジャンルを超えた多角的な研究を行うこととする。 以上のような研究の目的について、本年度は、第一の目的にあるアイルランド及び北米(カナダ)におけるワイルドの受容状況について、歴史的な劇場等における現地取材及び主要な図書館における資料収集を行うことができ、非常に有意義であった。第二の目的にあるワイルド受容の特徴に関する考察やワイルドによる複数のジャンルの作品の研究についても、具体的に研究を進め、今後の研究についての展望も得ることができた。日本でのワイルド受容については、特に、島村抱月について具体的な調査研究を促進することができた。 研究成果は、国際学会における研究発表や研究論文の出版を通して広く公表してきた。それにより、国際的なワイルド研究者や演劇研究者との議論も深めることもでき、国内外での研究活動を通して今後の発展に繋がる新たな知見を得ることができた。 以上のことから、当初の計画通り順調に研究が進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、平成23年度及び平成24年度に得られた成果を基にして、日本におけるワイルド劇の受容に関する研究総括を行う予定である。それと同時に、受容研究と連動させた形でワイルドの作品研究も行うこととする。特に、従来日本で注目度が低かった喜劇作品の受容にも重点を置き、より均衡の取れた受容史の構築を目指す。また、ワイルド劇の受容の全貌を把握するためにも、より広い観点に立って戯曲以外の作品をも研究対象とし、ワイルド劇の再評価と受容史の構築を行う。その際、過去一世紀以上の間に日本におけるワイルド受容のあり方が大きく変容してきた点に着眼し、日本国内の演劇事情について時代背景の検証を含め更に研究を深める。また、主要な英語圏諸国での受容のあり方と比較考察することで、 日本における受容の特徴を明らかにする。国内外の研究出張も積極的に行い、現地取材を通して作家や上演に関する貴重な資料を収集する。更に、日本と英語圏諸国との比較研究を通して明らかになったワイルド受容の系譜について、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う予定である。 研究成果は随時学会での研究発表や論文刊行により公表する予定である。その一環として、平成25年度に出版予定の比較文化研究に関する共著において研究論文を発表し、広く一般に研究成果を公表する。また、平成25年7月18日から7月24日までソルボンヌ大学において開催される The International Comparative Literature Association (ICLA) の2013年度国際大会等において研究発表を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年7月から8月に掛けて、ヨーロッパで開催される国際学会での研究発表やアイルランドでの調査研究を行うために旅費が必要であり、研究費を充当することになる予定である。平成26年2月から3月に掛けても海外での調査研究を予定しており、旅費が必要となる。また、研究発表を行うための学会参加費や研究を遂行する上で必要な資料の購入費や複写経費としても研究費を使用する予定である。
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