2011 Fiscal Year Research-status Report
マーガレット・フラーにみる19世紀アメリカの女性のキャリア形成とジェンダー意識
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23520323
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Research Institution | Taisho University |
Principal Investigator |
伊藤 淑子 大正大学, 文学部, 教授 (50223201)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 19世紀アメリカ / ジェンダー / 論理的戦略 / マーガレット・フラー |
Research Abstract |
これまで日本ではまとまったかたちで研究成果が出されていないマーガレット・フラーを、19世紀アメリカの女性のキャリア形成という視点から研究することを目的に研究を進めている。平成23年度はその第一段階として、難解な文体で知られるフラーの代表的著作である『19世紀の女性』の日本語翻訳に取り組んだ。難解であるといわれるひとつの原因である論理と修辞を読み解き、一見混乱しているかに思える展開こそ、フラーの戦略であったことを分析しているところである。 キリスト教的道徳観、伝統的ジェンダー観、教育制度や法制度によって女性が知性の主流から排除されざるを得なかった時代に、フラーがさまざまな矛盾をかかえつつ獲得した言説を分析中である。 さらに、マーガレット・フラーの書簡集の研究を進めた。6巻の書簡集に目を通し、それぞれの時期にフラーが考えていたことを抜き出す作業をしている。 また、マーガレット・フラーを起点におきながら、ジェンダーをめぐる言論がどのように展開したのか、現代にいたるまでの広い視野で考察した。マーガレット・フラーが疑問視し、改革の理想を描いた事柄が、現代のアメリカ文化においていかなる結実をみせているのか、ということも考えたい。 もう一つの視点として、 マーガレット・フラーの生きた時代の日米の状況についても目配りをしたい。19世紀中葉は日本の開国前夜であるが、その時代の日本人の見たアメリカの状況についての文献調査も進め、当時のアメリカを多角的に分析することを試みた。福沢諭吉などの残した文献に映るアメリカと、マーガレット・フラーが書き記したアメリカを比較することによって、フラーの視点からばかりでなく、外から見たアメリカのジェンダー状況を相対化して分析できると考えるからである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年から継続して行っている『19世紀の女性』の翻訳の目途がたつところまできた。 書簡集をほぼ目を通ることができた。定期刊行物などに発表された記事については、今後の課題が残されたが、家族や親しい友人に宛てた手紙は、フラーの内面を探るための重要な資料になる。
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Strategy for Future Research Activity |
『19世紀の女性』の翻訳原稿の推敲をすすめて完成させる。 19世紀の女性運動の思想とフラーの考えの関連性および相違点を明らかにする。エリザベス・ケイティ・スタントンなどと接点があったことは確かめられているが、女性参政権を求める運動において連携することはなかった。ジャーナリズムという社会的なつながりのなかに身を置きつつ、同時代の女性活動化たちとなぜ歩調を合わせることがなかったのかを考えたい。また、黒人奴隷制運動をはじめとする社会改革運動とフラーの社会改革思想の関連性および相違点をあきらかにする。 さらに、エマソンをはじめとする超絶主義の知識人たちの目に映ったフラー像を読み解く。直接フラーやフラーの著作について書かれた批評だけではなく、インテリの女性を揶揄する言説に反映されたフラーのイメージも探っていきたいと考える。知的活動から女性が排除されていた時代に、フラーは編集者としてジャーナリストとして、まさに知性を武器とするキャリアを築き上げたといえる。女性の知性がどのようなイメージで社会に迎えられたのか、好意的なものも敵対的なものも含めて、当時のフラー批判、女性批判の言説を分析したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度も主として文献の収集に研究費をあてたい。また、19世紀から現代までのジェンダー意識の変遷について、広く情報を集め、情報提供者への謝礼にあてたい。他には、事務的な用品の購入などにあてたい。
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