2013 Fiscal Year Annual Research Report
21世紀英文学における「翻訳論」の現代的課題:理論的展開及び相互関係性の考察
Project/Area Number |
23520326
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Research Institution | Tsuda College |
Principal Investigator |
早川 敦子 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (60225604)
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Keywords | 翻訳論 / 現代英語圏文学 / ホロコースト / 歴史の再読 / エヴァ・ホフマン(招聘) / 記憶 |
Research Abstract |
課題最終年度として、3年間の統括を行った。「翻訳論の現代的課題」を考察するという全体の研究の目的に則り、研究実施計画で明記したように、具体的なテクストとしてホロコーストの言説を21世紀英文学から抽出するにあたり、ホロコースト第二世代の英国作家エヴァ・ホフマンに焦点を当てた研究をまとめた。成果は、国際シンポジウム(広島、2013年12月7日)での基調講演「未来への記憶―新たな地平を求めて」で公開、ならびに「記憶の道標―『ホロコースト』を語ること」(津久井良充ほか編著『<平和>を探る言葉たち―二○世紀イギリス小説にみる戦争の表象』鷹書房弓プレス所収、特別寄稿)などに寄稿し、英文学研究のコンテクストでの位置付けを試みた。 また、「翻訳論の現代的課題」への考察としては、言語と他言語の関係性を照射する目的で、ロジャー・パルバースの言語論『驚くべき日本語』の翻訳に取り組み、集英社インターナショナルより出版、そこで得た知見も取り込み、「他者への試練―遠藤周作『沈黙』に見る翻訳的空間」(論文)を津田塾大学『紀要』(第46号)にまとめた。翻訳論の理論化は著書『翻訳論とは何か-翻訳が拓く新たな世紀』(彩流社)に統括し、20世紀から現代にいたる翻訳理論の展開とその背景への考察を行った。 以上の研究の意義は、グローバルな展開が活性化する現代文学において、翻訳がいかに協働し、そこにホロコースト研究など、歴史的な背景が影響を及ぼしているかを明確にすることである。とくに負の歴史をどう次世代に継承していくかという問題は、文学研究のみならず広く現代社会において多角的に議論される課題であり、本研究の重要性は、まさにその議論において翻訳論の可能性を示唆するところにあるといえる。
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