2011 Fiscal Year Research-status Report
オスカー・ワイルドとドレフュス事件―同性愛・反ユダヤ主義・マスキュリニティ―
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23520334
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Research Institution | Wako University |
Principal Investigator |
宮崎 かすみ 和光大学, 表現学部, 教授 (10255200)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | オスカー・ワイルド / ドレフュス事件 / アンドレ・ジッド / 同性愛 / 反ユダヤ主義 / 国際情報交流 / イギリス / アメリカ合衆国 |
Research Abstract |
初年度にあたる当該年度は、ワイルドの評伝執筆を精力的に行った。現在は全体の8割程度まで進み、今年度中には刊行できる見通しである。ワイルドの評伝は、日本語においては約50年間書かれておらず、この間の同性愛に対する社会の態度、理解がこれだけ大きく変わった事情をかんがみれば、ワイルド評伝の執筆と刊行は学問的のみならず、社会的にもきわめて意義深いことと思われる。とりわけワイルド伝の決定版と長い間みなされてきたエルマンの見解が、2003年のマッケンナによる評伝の刊行により大きく見直されている現状にあって、ワイルドの人間性に対する理解や伝記的事実については、新たな研究成果が陸続と刊行されている。研究代表者はそれらを取り込みつつ執筆している。 エルマンの見解から大きく変わった点は、ワイルドの最初の相手がロバート・ロスだったという従来の説が覆されたことである。こうした点を中心に、ワイルドの若い時期における同性愛体験を見直した論考を発表した(「オスカー・ワイルド初期のウィタ・セクスアリス」『和光大学表現学部紀要』)。 こうした研究は、二回にわたる海外渡航調査によって可能になった。夏季休暇中にはイギリスのブリティッシュ・ライブラリーにおいて、最新の研究成果を渉猟し読み込んだ。さらに春季休暇時にはアメリカ、ロサンゼルスにあるアンドリュー・クラーク記念図書館においてワイルド関係者のマニュスクリプト資料をリサーチし、これを写真に撮影してきた。現在、この写真資料の整理を終えたところであり、本格的に資料の読み込みに着手しつつあるが、手稿資料という特性上、判読するのに時間がとられているところである。 この評伝において、ワイルドとドレフュス事件の関わりを先取りして盛り込む予定であり、多数の読者が見込まれるワイルドの評伝において、この衝撃的な事実が発表されると、かなりのインパクトがあると予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在鋭意執筆中のワイルドの評伝は、約8割のところまできている。これは今年度中に刊行できると思われるが、晩年の部分で、ワイルドとドレフュス事件の関係を盛り込む予定である。つまり本研究成果を先取りして発表することになるものである。この評伝は中公新書という媒体で発表される予定であるが、これは一般の人々を読者の対象としており、こうした大部数の媒体において、日本ではほとんど知られていないワイルドとドレフュス事件の関係について発表する意味はきわめて大きいと思われる。 また現在の研究を遂行していく過程で、ワイルドとアンドレ・ジッドの影響関係の大きさが浮かび上がってきた。上記の評伝においても、この点についてかなり踏み込んだ記述をしているところだが、ある意味では、ジッドこそがワイルド文学の継承者とも言える、というのが当該研究における発見である。こうした視点は、本研究の計画調書段階では盛り込んでいなかったが、研究遂行の副産物として出てきたものであり、これを英仏の比較文学的観点から切り込んでゆく展望が開けた。 昨年度は、イギリスのブリティッシュ・ライブラリーとアメリカ、ロサンゼルスのアンドリュー・クラーク記念図書館において、二度にわたる資料調査旅行を行った。いずれにおいても、有益な調査活動を行うことができ、評伝にも最新の研究成果と、ワイルド関係者の手稿という貴重な一次資料を研究に盛り込むことが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はとにかくワイルドの評伝を刊行させることを第一の目標とする。その際に、本研究課題のドレフュス事件との関わりについて、この評伝のなかに盛り込む。 評伝刊行後は、主に、アンドレ・ジッドとワイルドの関係について、比較文学的見地から追及してゆきたい。 またドレフュス事件とワイルドの関係性については、ジャーナリズム(新聞、雑誌など)での報道において、それぞれがどのような書かれ方をしていたかについて調べてゆくつもりである。とりわけマスキュリニティに対する侵犯という観点から分析を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
三回の調査旅行を予定している。イギリスでは、ブリティッシュ・ライブラリーとオックスフォード大学ボードリアン・ライブラリー。 アメリカではロサンゼルスのカリフォルニア大学ロサンゼルス校、アンドリュー・クラーク図書館にて、引き続き関係者の手稿資料を収集する。 また、フランス、パリにてドレフュス事件関係およびアンドレ・ジッド関係の資料についても収集したい。パリにおけるワイルドの足跡などについてもたどってゆく予定である。 いずれにおいても収集した資料の整理のために、研究補助者を雇用する予定である。
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