2012 Fiscal Year Research-status Report
オスカー・ワイルドとドレフュス事件―同性愛・反ユダヤ主義・マスキュリニティ―
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23520334
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Research Institution | Wako University |
Principal Investigator |
宮崎 かすみ 和光大学, 表現学部, 教授 (10255200)
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Keywords | オスカー・ワイルド / 同性愛 / ドレフュス事件 |
Research Abstract |
平成24年度は、これまで数年にわたって続けてきたワイルドの評伝執筆に集中し、これをほぼ完成させた。これは一般向けの新書として刊行される予定であるため、わかりやすく平易な文章でありながらも、格調の高い文章で書き、なおかつ最新の研究成果を盛り込みながらも面白く読めるように工夫しなければならず、大変な労力を要する仕事であった。しかも枚数に制限があるため、必要な情報を盛り込みながらも無駄をそぎ落とさなくてはならず大変な作業だったが、研究成果を一般の社会に還元することができることは大きな意義があると思われる。 研究内容に関しても大きな進展があった。ワイルド裁判の記録を丹念に読み、かつ獄中でワイルドが書いた書簡などを精査することによって、ワイルドがイギリスで最初の同性愛者であるという、エド・コーエンの説を覆すことができた。ワイルド裁判は、コーエンやジェフリー・ウィークスが述べていたような同性愛裁判ではない。その根拠として、この言葉は一度も使われていない。ワイルドはソドミー罪に問われてはいなかったものの、裁判の実質的な争点はソドミーだった。獄中にあったワイルドの医療検査の結果や、結局早期釈放がかなわなかった史実などからして、ワイルドは同性愛という概念で扱われてはいなかったことが明らかになった。 当時のイギリスにおける性科学の展開を、ワイルド裁判という歴史的事件とのかかわりから解明したという点でも、画期的な成果が達成できた。 また、ワイルドとドレフュス事件とのかかわりについても、評伝に盛り込んだ。従来のエルマンらの見解とは異なる、最新の知見を反映させた評伝を完成させることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで執筆していたワイルドの評伝は、中公新書として刊行予定であるが、現在おおむね脱稿して一部を除いた原稿を編集者に渡して、校正作業を進めているところである。25年度半ばには刊行される予定である。 当該課題の目的であるワイルドとドレフュス事件の関わりについて、評伝の後半の山場として盛り込んだので、当初の目的は達成したといえる。 さらに、ワイルドをイギリス最初の同性愛者であるとした従来の説(エド・コーエンが唱えた)を覆す新知見を明らかにし、その観点からワイルド裁判から釈放後に至るワイルドの人生をたどったことにより、イギリス同性愛史に新局面を開く見解を打ち出している。
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Strategy for Future Research Activity |
ワイルドとドレフュス事件の関わりというテーマに限れば、既に刊行予定の評伝に盛り込み、かつそのテーマに特化した著作、J.Robert Maguire, Ceremonies of Bravery (Oxford U.P.)が2013年早々に刊行された。そのため、当初の研究課題を修正して、ワイルド裁判以降におけるイギリスの同性愛研究の動向および、ワイルド死後のワイルド・サークルの展開を調べることにしたい。前者については、ワイルドがワンズワース監獄に収監中、そこに勤務していたモリソンという聖職者を中心に調べたい。この聖職者は、聖職者でありながら大陸の性科学にも通じ、ロンブローゾの生来性犯罪者論なども翻訳してイギリスに紹介していたし、エドワード・カーペンターとも通じていたらしい。モリソンはワイルドを性科学的に「病的な体質」の持ち主としてみなして、自慰にふけっていると報告して当局を困惑させたが、モリソンこそ性科学の最新の理解からワイルドについて報告した唯一の人であった。当時のイギリスの学問的知見からするとモリソンは先走りすぎていて、理解されなかった。エリスが1897年に同性愛研究書を刊行するに至る、イギリスにおける性科学研究の実態を解明してゆくことにする。 また、ワイルド・サークルの展開については、ロサンゼルスにあるカリフォルニア大学ロサンゼルス分校アンドリュー・クラーク図書館が、豊富な一次資料を所蔵することがわかったため、この資料を十分に読み込んでゆき、ワイルド評伝の続編の形で刊行することを目標にしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ワイルド死後のワイルド・サークルの動向を調べるために、ロサンゼルスのアンドリュー・クラーク図書館にて調査をする。そのための旅費・滞在費を計上する。 また、イギリスにおける性科学研究の歴史を調べなおすために、イギリスに渡航して調査することとなるが、そのためにも旅費・滞在費を計上する。 24年度は書籍の執筆に専念したため、新たな図書の購入はあまりしていなかった。そのため、次年度においては滞っていた図書購入を積極的に進めて、図書を充実させる。 また研究者が所属する和光大学のジェンダー・フォーラムと共催で、研究者のワイルド伝の刊行に合わせたシンポジウムか研究会を開催する予定である。
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