2013 Fiscal Year Research-status Report
オスカー・ワイルドとドレフュス事件―同性愛・反ユダヤ主義・マスキュリニティ―
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23520334
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Research Institution | Wako University |
Principal Investigator |
宮崎 かすみ 和光大学, 表現学部, 教授 (10255200)
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Keywords | オスカー・ワイルド / 同性愛史 / 変質論 / ハヴロック・エリス / マックス・ノルダウ |
Research Abstract |
13年度には、研究成果の一部を『オスカー・ワイルド 「犯罪者」にして芸術家』(中公新書)という書籍として刊行することができた。部数の多い一般書であることから、文体や表現などに格段の配慮を払い、予想以上の時間がかかったが、幸いにして好評をもって受け入れられた。ある読書サイトには、「科研費の成果という点もすばらしい」という読者の書きこみもあり、一般向けの読み物としてワイルドの生涯をたどり、なおかつそのなかで、イギリス同性愛史の最新研究をも盛り込むという本研究の意図は十分達成できたかと自負している。本書では、ワイルド裁判が従来のソドミー裁判の枠を踏襲するものであることを明らかにし、ソドミー法と1885年の改正刑法によってできた重大わいせつ罪が併存するイギリスの法律事情を詳述し、ワイルド裁判の背景を歴史的、法制度的かつ社会史的に明らかにした。この点は日本の英文学者にさえ誤解されていたところであり、この知見を整理して明らかにしたことは画期的なことであり、読者にも好意的に受け入れられている。また、当時大陸諸国で進展していた性科学の成果を知らずにいたワイルドが、ワンズワース監獄で出会ったモリソンという聖職者によってその知見を得た可能性を指摘した。これはイギリスにおいてもまだ指摘されていない事実であり、研究上の成果としても重要な知見であると考える。 書籍中でも本研究において新たに発見したワイルドの長男が日本を訪れた証拠資料を披露し、読者諸氏に喜ばれたが、その資料を所蔵するUCLAアンドリュー・クラーク記念図書館で二度目の調査を行った。書籍では用いることのできなかった重要な資料を閲覧し記録できたので、これを成果として発表するべく準備を進めている。 3月には、日本キプリング協会年次大会にて、「オスカー・ワイルドとその時代」と題して、本の刊行記念講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果を上記書籍として刊行できたことは大きな意義があると考える。オスカー・ワイルドがドレフュス事件と関わっていた事実は、驚きをもって迎えられた。しかもそうした重要な知見を、一般読者に手にとりやすく、読みやすい形で発表したことの意義は大きい。あるブログでは「日本人研究者が日本人読者のために外国人の評伝を書く意義を体現している」と評された。
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Strategy for Future Research Activity |
ドレフュス事件とのかかわりをこれ以上追求するのをやめるつもりであることは、前年度の報告書で記したとおりである。今回刊行した書籍に盛り込んだ事実でもって十分に意義は果たし得たと考える。 資料収集が困難なドレフュス事件とのかかわりよりも、今後は、性科学思想と社会主義の関わり、またそれを取り巻くイギリスの特殊な事情などを掘り起こすことに主軸を移していくつもりで研究をしている。具体的には、ハヴロック・エリスとエドワード・カーペンターを中心とした性の近代化思想にアプローチしている。イギリスでは異端的と見なされた性科学研究が、文芸批評と密接にかかわった形で進展していたという事実に着目して、エリスとウォルター・ペイター、およびジョン・アディントン・シモンズといった文人とのかかわりを評伝の形式で発表することを目指している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
印刷機とノートパソコンを発注していたが、消費増税前の特需によって品薄となり、購入できなかった。 前年度購入できなかった印刷機とノートパソコンを購入する。
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