2011 Fiscal Year Research-status Report
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23520342
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
有満 保江 同志社大学, 言語文化教育研究センター, 教授 (20097075)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 多文化社会と文学(オーストラリア、アメリカ) / 離国者文学(オーストラリア、カナダ) / 文化の混淆(オーストラリア、東南アジア) / 主体の変容(オーストラリア、日本、東南アジア) |
Research Abstract |
今年度の研究実績としては、論文 'The Contemporary State of Academic Appraisal of Australian Literature in Japanese Universities' がある。この論文は、日本におけるオーストラリア研究の動向を紹介するものであり、アメリカの雑誌 "Antipode" に掲載された。日本におけるオーストラリア研究がアメリカで紹介されたことは、今回がおそらく初めてであろう。また、2012年2月刊行のディヴィッド・マルーフ著『異境』武舎るみ訳(現代企画室)の解説「オーストラリア『現代文学傑作選』刊行に寄せて」(292-300)を執筆し、日本にオーストラリア文学を紹介した。 研究発表としては、オーストラリア学会大会のシンポジウム『「演劇を通してみる日豪の出会い~ジョン・ロメリル『ミス・タナカ』をめぐって』において、「ジョン・ロメリル作『ミス・タナカ』とザヴィア・ハーバート作「ミス・タナカ」をめぐっての一考察」がある。『ミス・タナカ』は日本とオーストラリア文学の融合を試みる作品である。また『西オーストラリア――日本交流史』のシンポジウムにパネリストとして参加し、「日豪文学にみるオーストラリアの移民社会」と題する講演を行った。 離国者文学の研究については、ベトナム系オーストラリア人作家、ナム・リー著 "The Boat" をとりあげ、' A Reflection on Multiple Selves'と題する論文を、カナダ、モントリオールのConcordia Universityで開催された学会 "Literatures in English: New Ethical, Cultural and Transnational Perspectives"で発表し、世界中のオーストラリア研究者と意見を交換した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の実績は、アメリカのオーストラリア学会の紀要 "Antipodes" に論文が掲載され、日本の現代における文学的状況を欧米に知らせることができた。また、出版社「現代企画室」の企画として、世界各地から移民としてオーストラリアを訪れた多様な文化的背景をもつオーストラリア人作家の作品を10年計画のもとに翻訳出版することが決定した。その第1回目の作品が出版され、解説文を執筆した。今後、このプロジェクトの作品選定にかかわることになった。この企画は、多様な移民をかかえるオーストラリア社会において、作家や作品の登場人物の主体の変容に焦点を当てる当研究にとって、重要なものとなるであろう。 離国者作家の作品についての論文を、カナダの学会において発表した。論文の内容は、ベトナム系のオーストラリア人作家が書いた作品であり、登場人物の描写における「主体」に焦点を当てた。この作品の登場人物の主体は、かつての国民国家を基盤にするものから大きく変化しつつあることが検証できたと考える。この論文は、作家と国家の関係の変容を把握するものであり、今後の研究の重要な基盤を築くものとなるであろう。 オーストラリアの劇作家、ジョン・ロメリルの演劇のリーディングが2011年度に早稲田大学にて実演されたが、2012年度には人形劇として日本で上演されることが予定されており、2011年度の発表が、日本とオーストラリアの文学作品のコラボレーションのきっけとなり、今後、日豪の文学の混淆の進展が期待される。筆者がもっとも関心をもっている「主体」についての研究は、カナダの学会において研究発表を行ったが、今後はアメリカ、アジア、ヨーロッパなどに目を向けていきたいと考えている。ことに2012年度は、韓国、台湾、中国のオーストラリア研究の状況を調査することに大きな関心を抱き、今後の研究につなげていく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下のとおり。(1)2012年度の計画は、東アジアを中心とする国際シンポジウムを開催である。当研究課題は文学をグローバルな視点で捉えることであるが、現代の人的移動がさまざまな地域で生じ、国民国家の枠組みがはずされていく過程における「主体」の基盤が国家でなくなりつつあることを検証していく予定である。1年目はアジア系オーストラリア人作家の作品をとおして「主体の変容」を追ったが、2012年度は、国際シンポジウムを開催し、東南アジアの研究者たちと、現代の「主体」「アイデンティティ」の行方について、意見交換をする。このシンポジウムでは、文学に特化するのではなく、メディア、映画など通してその「主体」の在り方について検証する。(2)多文化を反映する現代オーストラリア人作家の作品の翻訳計画を進展させる。とくに作品をとおして、グローバルな視点で作品の価値を見ていくことに焦点を当てる。この企画の意味は、多文化社会の進むオーストラリアの文学作品をとおして、将来、多文化化が予想される日本に、大きな指針を与えてくれるものであると考える。(3)東京大学で開催されるアジア・太平洋を中心とした文学の諸問題を扱うシンポジウムにパネリストとして参加予定。オーストラリアの先住民作家の「主体」をテーマに研究発表を行う予定。(4)スペイン、バルセロナで開催される"Looking Back to Look Forwards"to be held at Universitat de Barvcelona のシンポジウム において、「グローバリゼーション、文学、国家、主体」というテーマで講演予定。当研究課題は、この科研助成の成果として著書を出版しようと考えているが、その重要な基盤となるものと考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)国際シンポジウムの開催、2012年度は、東アジア(韓国、台湾)の研究者を招聘し、同志社大学にて国際シンポジウムを開催する。その費用としては、2名の研究者の招聘のための費用(交通費、宿泊費、謝礼等)、シンポジウムの開催費が必要となる。昨年度からの繰り越し金をこれに充てる予定である。(2)韓国および台湾からの招聘者との打ち合わせのために、韓国または台湾に訪問予定のため、その出張費が必要となる。(3)12月にスペイン、バルセロナで開催予定のシンポジウムに参加するための出張費が必要となる。(4)多文化を反映する作家の小説の翻訳ブロジェクトの共同編集者であるProf.Kate Darian-Smith(Melbourne University)の日本への招聘費用が必要となる。(5)当研究テーマに関する資料として、現代オーストラリア作家の作品および研究書の購入が必要となる。
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