2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520342
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
有満 保江 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (20097075)
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Keywords | 多文化社会と文学(豪州、米国、カナダ) / 離国者文学(豪州、欧米、アジア) / 文化の混淆(豪州、欧米、アジア) / 主体の変容(豪州、欧米、アジア) |
Research Abstract |
2012年度の研究実績は、論文として“Nam Le’s The Boat: A Reflection of Multiple Selves in Literatures in English: New Ethical, Cultural, and Transnational Perspectives(to be published in May, 2013)を発表した。この論文では、オーストラリア出身の離国者作家ナム・リーの作品を扱い、現代の若手作家のアイデンティティが、文学作品のなかにどのように表象されているかについて、具体例をあげながら検証した。ことに、近代文学からポスト・コロニアル、ポスト・モダンへの移行において、主体(サブジェクティヴィティ)が作品のなかから消滅する現象が起きていることを、ナム・リーの作品をとおして検証した。 研究発表としては、①東京大学アメリカ太平洋地域研究センター(CPAS) 主催のシンポジウムにおいて、“Australia as a Literary Device in Japanese Literature”、②スペイン・バルセロナ大学で開催された国際シンポジウムの基調講演において、“Nation, Identity, and Subjectivity in the Globalizing Literature”などがある。これらの論文に一貫して流れているテーマは、「近代文学の主体」が、グローバル化された現代において、いかに変容しているを明らかにすることにある。2012年度までの研究においては、多文化社会と文学の変容に注目し、オーストラリアをその検証の対象としたが、2013年度の研究においては、グローバル化する現代の、国家、言語、文化の壁を超えていく文学の行方を追いつつ、日本文学との関連性にも注目をする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 2012年度の業績として、“Nam Le’s The Boat: A Reflection of Multiple Selves”が単行本の中に掲載された。 (2) 2012年7月、東京大学アメリカ太平洋地域研究センター主催のシンポジウム‘Imagining the Pacific, Imagining Australia’において、論文“Australia as a Literary Device in Japanese Literature”を発表した。 (3) 2012年度9月、多文化化が進行する現代において、文学、メディア、映画などの表象手段にどのような変容がみられるかをテーマに、“Literature, History, Film Studies in the Gloabalizing Age”と題する国際シンポジウムを主催した。台湾国立大学教授: 沈曉茵(フィルム・スタディーズ)、鮮文大学校教授(韓国): 教授(メディア学)、上海対外貿易学院(中国): 林授教授(文学)、Melbourne University(豪州), Kate Darian-Smith(歴史)を招聘し、多文化主義がもたらす影響を、学際的に討論した。 (4) 2012年12月、スペイン・バルセロナで開催された‘Looking Back To Look Forwards’と題する国際シンポジウムに招聘され基調講演を行った。内容は、現代の文学の変容を、オーストラリア作家、ポスト・コロニアル作家、そして日本人作家(村上春樹など)をとりあげ、グローバル化する現代社会における作家が国境、文化、言語などの壁を自在に超えて作品を書いている傾向について、さらにはそこから生じる問題点などを論じた。これらの発表、講演は、当研究課題の進展に大きく寄与したものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度の推進方針: (1) 2013年5月、大阪において開催される “The International Academic Forum, The Asian Conference on Cultural Studies 2013”に招聘され、基調講演を行う予定。(2) 2013年7月にオーストリア、インスブルックで開催される“International CISLE Conference on Literatures in English: New Frontiers in Research”に招聘され、論文発表を予定。(3) 2013年秋に、キャサリン・マンスフィールドをテーマとした国際シンポジウムを開催予定。イギリスの研究者を招聘し、日本のオーストラリア・ニュージーランド文学会のメンバーによるシンポジウムを開催する。英語圏文学の新しい方向性について日本の若手の研究者に発表の機会を与え、20世紀の離国者作家と現代の離国者作家との比較を行う。(4) 2014年7月に、オーストラリア研究に関する国際学会を東京において開催予定。オーストラリア学会主催、筆者は学会の代表理事を務める。その準備期間として、2012年度に開催した国際シンポジウム、2013年度に開催するシンポジウムはその準備としての役割を果たしたと考えている。アジアや欧米のオーストラリア研究者、大学院生の参加を募り、オーストラリア研究の今後について議論する。(5) 2013年度には、10年計画の企画「オーストラリア文学傑作選」の第2回の訳本、Tim Winton の “Breath”が刊行がされる(企画、選書に携わる)。刊行時にはシンポジウムも開催予定。(6) 2011年度から2013年度に当該究課題に即した論文を発表してきた。2014~2015年度には、この内容を本としてまとめ、出版する方針である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1) 2013年5月、大阪において開催される “The International Academic Forum, The Asian Conference on Cultural Studies 2013”への参加にあたって、資料等の費用、および主催者との打ち合わせの費用が必要となる。(2) 2013年7月にオーストリア、インスブルックで開催される国際シンポジウム“International CISLE Conference on Literatures in English: New Frontiersin Research”に参加する準備のための資料、および出張費が必要となる。(3) キャサリン・マンスフィールドに関する国際シンポジウムへの出席者と打ち合わせをするため東京への出張が必要となる。また、シンポジウムへ参加するための資料の準備、および参加費用が必要となる。(4)「オーストラリア文学傑作選」の第2回の翻訳書の出版にあたり、出版記念行事が東京で開催される。そのための打ち合わせとして、訪豪出張費用、およびオーストラリア作家を招聘するための費用が必要となる。(5) 本プロジェクトの最終目的である本の執筆のための資料として、研究対象となる国の現代の文学作品、および研究書の購入が必要となる。
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