2013 Fiscal Year Annual Research Report
労働組合の発展とイギリス初期モダニズム小説の語りの形成
Project/Area Number |
23520347
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
伊藤 正範 関西学院大学, 商学部, 教授 (10322976)
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Keywords | イギリス文学 / 労働運動 / 初期モダニズム |
Research Abstract |
最終年度である本年度は、19世紀末イギリスの労働組合運動と初期モダニズム小説の発展との関わりについてより包括的な視点から探るため、主要な研究対象をジョーゼフ・コンラッドからH・G・ウェルズへと移行し、比較対照のためにチャールズ・ディケンズやエリザベス・ギャスケルによる小説テクストの分析も並行して行った。また、前年度に引き続き、19世紀末イギリスの労働運動に関連する新聞・雑誌等の収集・分析を行った。 注目したのは、1889年のロンドン港湾労働者による大規模ストライキを経て、労働者の社会における集合的位置づけがどのように変化したのかという点である。一次資料の分析によって明らかになったのは、1)リベラル派、保守派を問わず、さまざまなニュースメディアがストライキについて概して肯定的な報道を行っていたこと、2)そうした出版物を通して、ストライキに参加する労働者たちが前例のないパブリシティーと共感を獲得していたことなどである。 そうした変化が実際の文学テクストにどのように反映されているかを検証するために着目したのが、ウェルズの『透明人間』(1897)に登場する群衆である。物語終盤において、人夫や鉄道夫をはじめとする労働者たちの群衆は、透明人間グリフィンを打ち倒すことによって社会秩序の回復をもたらす。主要登場人物たちを差し置いて突如として物語の前面に出てくるこの群衆には、伝統的な〈個〉に代わって〈集団〉が物語の最終的解決を引き受けるという、従来の小説にはない特有のダイナミクスを見いだすことができる。こうした観点から、労働運動と初期モダニズム小説の関わりについてのまったく新しい知見を導き出したのが、本年度の最大の成果である。 上記成果は論文「The Invisible Manにおけるモダン時代の群衆」として、査読誌に掲載予定である(2014年1月投稿、3月「修正要件なし」での掲載受理)。
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Research Products
(1 results)