2011 Fiscal Year Research-status Report
世紀転換期における形而上的文化交流の形―岡倉天心とヴァージニア・ウルフの芸術観
Project/Area Number |
23520349
|
Research Institution | Kobe Women's University |
Principal Investigator |
木下 由紀子 神戸女子大学, 文学部, 教授 (80214849)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
|
Keywords | 国際情報交流(ロンドン) |
Research Abstract |
岡倉覚三の、特に『茶の本』にみる美学・芸術論が近現代の作家、ヴァージニア・ウルフに与えた影響関係を考察することが、研究課題である。この課題を深めるには、まず、1903年から1906年にかけて出版された岡倉の英文著書が、イギリスの文化人・芸術家にいかに受容されたのかを見る必要がある。また、岡倉の著書の受容を考察する際には、「日本」およびその文化がどのように受け止められたのかを探る必要がある。したがって、2011年度の調査は、20世紀初頭のイギリスの知識人の傾向・思潮を顕著に反映した文献として、文芸雑誌『タイムズ文芸紙(TLS)』と『アシ―ニアム(The Athenaeum)』に注目した。この二つの雑誌は文芸誌としては20世紀初頭のイギリスの知識人においてその評論の質の高さゆえに信頼を得ていた雑誌であった上、ウルフや彼女に関わりの深かった芸術家・評論家が主たる寄稿者であったことで知られている。この二つの文芸紙(誌)における日本と岡倉の受容度は、ウルフと彼女を取り巻く知識人・文化人の日本と岡倉の受容度に重なる部分があると考えた。調査は海外においてはロンドンの大英図書館と国内においては京都大学文学部図書館および国会図書館(関西館)で行った。 2011年度の調査の結果、イギリスにおける岡倉および日本の「文化」受容は、日英同盟(1902年)、その下での日露戦争(1904-1905年)と日英博覧会(1910年)という社会的・政治的背景なくしては語れず、こうした政治的思潮の下、世紀末に収束を見ていたジャポニズムが再燃し、20世紀の初頭に第2のジャポニズムと呼ぶべき状況がイギリスにおいて生まれたことが確認された。イギリスのジャポニズムの第2波は、日英博覧会前後にその高まりを見せ、当時の前衛芸術である後期印象主義への関心と美学的に結びつきつつ、岡倉の著書が受け入れられていく過程が確認できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
資料収集と資料分析には予想以上に時間を要し、長期研修期間の大半はそれに費やすことになった。第1回(2011年夏)の大英図書館での資料収集はほぼ予定通り進み、その結果は学内紀要に論文として発表できたが、2度目の大英図書館での調査は予定していた時間がとれず、時間切れで、資料収集は8割、収集資料の分析は7割の進捗にとどまる。これは2012年夏の研修期間にまとめ上げる必要がある。また、岡倉研究を進めるために予定していたボストンでの調査は、イギリスにおける岡倉と日本の受容研究を進めたために、2012年度以降にずれ込んだ。 岡倉とウルフのテキスト分析は、調査に並行して進める予定であったが、これには時間的ゆとりと集中力が必要で、十分な時間を割けたとは言い難く、遅れている。1)岡倉と世紀末のイギリスの批評家との関連を調査すること、2)岡倉との直接的な交渉がみえてきたフライの芸術論を十分理解すること、3)ウルフとフライとの芸術観の関連性を探り、岡倉とウルフのモダニズムの関連を探ること、4)イギリスにおける第二波のジャポニズムを理解し、モダニズムとの影響関係を探ること。 以上は今後の研究を展開していくための基盤となると思われるが、2011年度には残念ながら十分な研究時間を捻出できなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
2012年度は、引き続き、大英図書館所蔵の資料収集とその分析を中心とした調査研究を進める。1920年から1930年におけるイギリスにおけるジャポニスムと岡倉の受容の浸透度、また、それらがイギリスのモダニズムにつながり成熟させていく過程を以下の手順で明確にしていくように努める。1)1920年から30年に見る『タイムズ文芸紙』と『アシ―二アム』の評論の概観、2)フライの芸術論の理解、3)岡倉との関連が深く、ヨーロッパの日本研究に一定の役割を果たした英語版『国華(The Kokka)』の概観、4)直接的関わりが確認できた岡倉とフライの思想的関連性を明らかにすること、5)ウルフの芸術論の深まりを、彼女の『評論集(The Essays)』を中心に、フライと岡倉の影響という観点から分析を行う。 岡倉、フライ、ウルフの評論と作品の分析に基づく芸術論の理解は、調査を進める際の基軸、資料分析のカギを握ることを十分意識し、時間を有効に使い、雑誌資料の調査と併せ、一次資料の収集と分析に努める。国内の研究機関が所蔵する文献については、海外での調査にロスが生じないように、有効に利用し、研究を着実に進める。 調査結果は、引き続き、調査後速やかにまとめ、研究発表と論文の形で公表を行うよう努める。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の研究は、国内においては引き続き京都大学図書館、国立図書館を中心に行い、国外においてはイギリスの大英図書館を中心に行う。いずれの場合も夏と春の研修期間を有効に利用し、研究を進める。直接経費は主として在外(イギリス)調査に充て、個人研究費でカバーできるもの(国内研究機関における資料収集、機器購入、低額書籍、文具)についてはそれを充て、使用できる研究費を用途に合わせて有効利用しつつ、調査の進展にとりわけ努める。
|
Research Products
(1 results)