2011 Fiscal Year Research-status Report
現代エスニック・アメリカ文学における空間表象の研究
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23520352
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Research Institution | Matsuyama University |
Principal Investigator |
吉田 美津 松山大学, 経営学部, 教授 (80140622)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | アジア系アメリカ文学 / エスニック・アメリカ文学 / エスニシティ / 環境批評 / 空間表象 |
Research Abstract |
本研究は、日系アメリカ文学を中心に現代エスニック・アメリカ文学においてエスニシティが風景や環境の空間表象としていかに描出され、そしてどのように構築されるかを考察することを目的としている。日系アメリカ文学については、日系移民が1940年代転住所(強制収容所)で創作した俳句を取り上げ、そこに見る自然描写を考察した論考「強制収容と日系移民の文学―俳句を中心に」を『エコクリティシズム・レビュー』(No.5、8月発行予定)に掲載予定である。平成23年度の研究成果は、著書(共著)二冊、雑誌論文一本である。1.研究成果:〔著書(共著)〕『オルタナティヴ・ヴォイスを聴く―エスニシティとジェンダーで読む現代英語環境文学103選』伊藤詔子監修、音羽書房鶴見書店、2011年。『アジア系アメリカ文学を学ぶ人のために』植木照代監修、山本秀行・村山瑞穂編、世界思想社、2011年。〔雑誌論文〕「アメリカに蘇る猿の大王―『トリップマスター・モンキー』に見るインターエスニックな視点」『多民族研究』(多民族研究学会)第5号、2012.5-21.2.内容・意義・重要度:〔著書(共著)〕『オルタナティヴ・ヴォイスを聴く』では、概論「アジア系の文学とアメリカの自然と風景」や作品紹介「カウンターカルチャーの場所/マクシーン・ホン・キングストン」、「家族史としてのチャイナタウン/フェイ・ミエン・イン」、「ヘテロポリス・ロサンゼルス/カレン・テイ・ヤマシタ」などを担当し、アジア系アメリカ文学の物語における風景と場所の重要性を考察した。『アジア系アメリカ文学を学ぶ人のために』では、「ヴェトナム系アメリカ文学―ヴェトナム戦争を超えて」において1.5世代による文学を論じた。〔雑誌論文〕「アメリカに蘇る猿の大王」では、アジア系のアイデンティティ構築にアフリカ系の運動や文化がどのように影響を与えたかを展開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「現代エスニック・アメリカ文学おける空間表象の研究」をテーマに、平成23年度における主要な目的は、日系二世作家たちが描く自然と風景、特に転住所(強制収容所)における自然と環境をどのように捉えたかを考察することである。その考察を深めるため、転住所における日系二世も含めた日系移民の文芸活動に注目し、転住所で詠まれた俳句を検討した。その成果は、エコクリティスシズム研究会第24回研究会(2011年8月8日)でのシンポジウム「エスニシティとエコクリティシズム―現代エスニック・アメリカ文学を読む」の報告を基にした論考「強制収容と日系移民の文学―俳句を中心に」にまとめた。論考は8月に『エコクリティシズム・レビュー』(No.5)に掲載予定である。 本研究の目的として、さらにアジア系アメリカ文学と他のエスニック文学におけるエスニシティと環境表象の関係を考察することがある。その視点から、アジア系とアフリカ系のインターエスニックな関係について論考を深める必要がある。2010年8月7日に開催された多民族研究学会におけるシンポジウム「アジア系アメリカ文学・文化におけるInterethnic Encounters」での報告を基に論考「アメリカに蘇る猿の大王―『トリップマスター・モンキー』に見るインターエスニックな視点」(『多民族研究』第5号、2012年3月)をまとめた。この論考によってアジア系文学におけるエスニシティと場所の表象は、ネイティヴ・アメリカンの文学と同様、アフリカ系アメリカ人の運動と文学とも密接に関連していることを理解することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に行った日系移民の文芸活動と環境についての考察を基礎として、日系作家Mitsuye YamadaのCamp Notes and Other Poems(1976)などに見られる砂漠と先住民の表象の検討と共に、ネイティヴ・アメリカンの作家Leslie Marmon Silkoの作品を中心に彼らの居住地がウラン採掘現場に近いことから、土地を基盤とした彼らの自然観が戦争と原爆開発によってどのような変容を遂げ、そこにどのようなグローバルな環境意識が構築され、それをどのような物語として語っているかを検討する。それは風景と場所の描写から彼らの変容するエスニック・アイデンティティを考察することでもある。その変容のナラティヴは、日系作家が描く共同体や場所への帰属意識のナラティヴとどのように類似しかつ異なるのかを明らかにする。 さらに、平成23年度に考察したアジア系アメリカ文学に見るアフリカ系の運動と文学の影響の論考を基礎として、平成24年度さらに平成25年度において1960年代の公民権運動を背景としてアジア系文学を中心に、ネイティヴ・アメリカンの文学やアフリカ系文学におけるそれぞれのアイデンティティの構築が場所の表象とどのようにインターエスニックに交差し影響し合っているかを考察する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は主に物品費として関連図書の購入と旅費として資料収集、さらにアメリカ研究を専門とする研究者との打ち合わせに使用する。関連図書としてはアジア系研究も含めてネイティヴ・アメリカンの文学研究関連図書ならびにアフリカ系アメリカ文学研究関連図書を購入する。購入予定の主なものは、『ネイティヴ・アメリカン文学―英語論文集成』(Native American Writing, ed. A. Robert Lee, Edition Synapse)全4巻、『アジア系アメリカ文学―英語論文集』(Asian American Literature, ed. David Leiwei Li, Edition Synapse)全4巻、『Asian American Feminisms』(ed. Leslie Bow, Edition Synapse)全4巻である。さらに購入が可能であるならば『アフリカ系アメリカ文学―英語論文集成』(African American Writing, ed. A. Robert Lee, Edition Synapse)全5巻の購入も検討する。さらに研究遂行に必要な電子辞書の購入に物品費を充てる予定である。 旅費は関西と関東地域の研究機関での資料収集や研究の打ち合わせの費用に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)