2012 Fiscal Year Research-status Report
日本アニメーションの翻訳分析による,視聴覚メディア・テクストの特性の研究
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23520355
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Research Institution | Kurashiki City College |
Principal Investigator |
安達 励人 倉敷市立短期大学, その他部局等, 教授 (60249555)
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Keywords | 視聴覚翻訳 / アニメーション / 宮崎駿 |
Research Abstract |
宮崎駿作品をはじめとする日本のアニメーション映画とテレビアニメの英語版を,多重コードの観点から記述的に分析し,共時的および通時的な比較を行った。具体的には,宮崎駿作品の多重コード(言語,パラ言語,視覚映像,音響等)を書き起こした視聴覚データを基礎資料として用い,その他のテレビアニメーションのデータを補助的資料として援用しながら,どういう規範のもとに,どのように英語への翻訳が行われ,それが後の翻訳にどんな影響を与えたかを,日米の生活様式や子ども観,タブー,表現形式等の差異の観点から,事例研究の地道な積みあげを通して明らかにしようと試みた。 その結果,最近の宮崎駿アニメの場合,多重コード・テクストにおける翻訳のありようを決める際の比重が高まっている要素は,映像の機能的等価であるという結論を得た。言い換えれば,原作のセリフに忠実(word oriented)な翻訳から,原作の映像に忠実(image oriented)な翻訳へと規範の変化が起きていることがわかった。翻訳された宮崎駿のアニメーションの旧バージョンと新バージョンとの違いは,word orientedかimage orientedかという新たな対立軸から生じている。したがって,セリフの直訳か意訳かという尺度からは規範の変化が鮮明にならないことを,記述的なデータに基づいて指摘した。 アニメーションはエンターテイメントの要素が強く,大衆の想念を比較的ストレートに反映している。本研究は,日本のアニメーションのどういう魅力が,どのように受容されている(あるいは受け入れられていない)かを共時的・通時的に明らかにしようとするもので,その成果は,北米における日本のイメージの変遷を多面的に捉えるための包括的な言語・文化研究に欠かすことのできない基礎データとして,有用であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
翻訳された宮崎駿アニメーションの記述的なデータの集積と,多重テクストの共時的および通時的な比較分析をほぼ計画通り実施し,公表するに足る一定の結論を得ることができたと考える。さらに,研究成果の社会への還元に関しては,著書1と論文1,学会での口頭発表1とで実施した。ただし,分析は基本的に手作業で行われた。つまり,言語情報とその他のコード情報とを併用して扱うことができる多重コード・データベース(多重コード情報とリンクした並列コーパス)の構築に関しては,まだ部分的に作成された中途段階にある。その原因は,データベース構築の遅延が,本研究の推進に当面は大きな影響を及ぼさないという判断から,今年度は部分的な整備にととどめたことにある。しかし,そのおかげで,個々の事例分析に多くの時間を充当できたことも事実である。結果的には,計画よりも早いペースで研究が進展した。かつその成果を国外でも著書や学会発表で公表することができた。したがって,全体としては,当初の研究目的をおおむね順調に達成したと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
翻訳研究とアニメーション研究との接続をはかることで視聴覚翻訳の発展に微力ながら寄与するために,これまでの研究成果を基に,翻訳アニメーションの通時的分析モデルの構築と提示に向けて研究を進める。その際,大量の多重コード・テクストを効率的に処理する方法の開発と普及とが主要な課題となると考える。したがって,当面は,宮崎駿のアニメーションにおける映像テクストの多重コード・データベースの構築を急ぎたい。 具体的には,まず,翻訳による影響が大きい音声データの処理方法の開発に着手する。宮崎駿のアニメーションでは,翻訳の際に映像に編集が加えられることはほとんどなく,翻訳の影響が大きいのは,主にセリフと音響であるからである。 次に,アニメーションという独自テクストを包摂する主要な特徴を効率的に分析できるように,音声と映像の各情報とリンクした並列コーパスを,試案として構築したい。さらに,同コーパスを使って,多重コード・テクストの精緻な分析と主要な典型的特徴の同定を、量的・質的に容易にする方法を提案し,国内外の論文や学会で発表したいと考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず,多重コードデータベースの構築のために,パソコン周辺機器やソフト類を購入する必要がある。また,映像と音響の分析に関する書籍や翻訳関係の文献等を入手するための支出も計画している。さらに,国内外での研究成果の発表のための旅費や,論文の英文校正費,論文掲載費等も予算に計上する。
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Research Products
(3 results)