2011 Fiscal Year Research-status Report
中世ドイツ文学の発信型研究の試み―日本文化を出発点として
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23520358
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
寺田 龍男 北海道大学, 大学院・メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (30197800)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / 日本文学 / 比較文学 / 中世文学 / 比較歴史学 / 国際情報交流 |
Research Abstract |
1.本プロジェクトの概要を公表し、以下の論点を明らかにした。(1)まず中世ドイツ文学の中でも近年研究がさかんになりつつある「ディートリヒ叙事詩」を研究するため、(1)基礎資料として語彙の分布調査をおこなう作業には意義がある。(2)またこのジャンルを閉じた世界として考察するのではなく、世界の「英雄文芸」(または「いくさ物語」・「英雄詩」)における位相を確認することにより、ドイツ語圏を中心とする海外の研究者にも新たな視点を提示しうる。(2)中世ドイツ文学の詩人・作者には古文書で生涯を辿れる人物がきわめて少ない上、文芸活動の実態を歴史資料から読み取ることも困難である。これに対して日本ではその種の記録が比較的多く残されているので、慎重な取り組みが必要ではあるが、さまざまな示唆・提言を行うことが可能である。(3)ドイツ語圏でも文芸作品や活動に関心を示した家門は知られているが、この面でも日本側の研究を援用することで成果が期待できる。なお上記(1)~(3)の遂行には従来のドイツ文学だけでなく、日本文学・日本歴史の研究成果にも多くを負うことを付言した。2.上記1の(1)(2)について海外の研究者に発信するため、『平家物語』の記述(「辻風)との関連性が指摘される鴨長明『方丈記』、および藤原定家『明月記』・九条兼実『玉葉』を比較した。文字文芸が成立する際は既存の形式や伝統が強い影響力をもつため、形式上の相違を理由に内容の比較を避けるべきではないという見解をドイツ語で発表した。3.上記1の(1)(1)についてミュンヘン大・アウクスブルク大・バイエルン州立図書館の研究者と意見交換を行い、有益な示唆が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、まずプロジェクトの全体像を公表することから始めた。すなわち上記の「概要」で略述した諸点に関し、具体的事例にもとづいて実証的な記述をおこなって論点を示した。また「ディートリヒ叙事詩」というジャンルをグローバルな視点でとらえた場合の位相を、少なくとも部分的に明らかにすべく、日本で対応するジャンルとなる軍記物語に関する論文を発表した。刊行した論文は2点であるが、「ディートリヒ叙事詩」の語彙に関する基礎的研究のため、旅費によってドイツで複数の研究者と討議することができた。この作業は本研究を進める上できわめて有意義であった。成果は今後順次公表する予定である。「研究実績の概要」1で公表した論文「中世ドイツ文学の発信型研究の試み」は平成23年12月6日に機関リポジトリで公開された。平成24年5月1日現在でのダウンロード数は450件である。(「Zur Faktizitaet in der japanischen Heldendichtung Gunki-monogatari」は本年4月17日に公開されたためまだ記録がない。)以上により、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降も引き続き23年度と同じ方針で研究を進め、変更する予定はない。また対応策を講じておくことが必要な課題も存在しない。具体的には、「ディートリヒ叙事詩」に関する基礎的研究を続け、できるだけ早い時期の公刊を目指す。また文芸活動の担い手やその実態に関して日本側の研究成果を援用する作業は、本人の文献調査はもとより、専門家の助言と協力が欠かせないので、各方面の方々にご指導をお願いした上で、こちらも早期に成果を発表する所存である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度に購入予定だった雑誌資料のうち、刊行及び配送が遅れたものがあったため、結果として49,666円の残額が出た。しかしこれらの資料はすでに納入済みであり、研究計画の遂行に支障は生じていない。平成24年度は「物品費」にこの残額をあわせて549,666円、「旅費」300,000円、「謝金」150,000円、その他「50,000円」の合計1,049,666円を使用する予定である。
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Research Products
(2 results)