2013 Fiscal Year Research-status Report
中世ドイツ文学の発信型研究の試み―日本文化を出発点として
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23520358
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
寺田 龍男 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (30197800)
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Keywords | 国際情報交換 ドイツ / リーンハルト・ショイベル / 英雄本 / 語彙調査 / 聖者 |
Research Abstract |
平成25年度は、交付申請時にはDawn Poetry(後朝の歌・Tagelied)を研究する予定だったが、助成の初年度に開始した「リーンハルト・ショイベルの英雄本」(以下「英雄本」)に関する研究をさらに進め、成果を公表するべきであると判断した。この「英雄本」に対する関心が最近ドイツ語圏の研究者のあいだで急速に高まっており、緊急度が高いと考えたからである。(これについては研究助言者であるミュンヘン大・バイエルン州立図書館の研究者たちからも督励を受けた。)そこで対象資料のさらなる分析と考察を進めた上で、論文2点を発表した。 第1論文では、この「英雄本」が日本でほとんど知られていないことから、まず内容の紹介を行うとともに、日本文学・日本史学研究者の関心に沿うよう、成立事情や作品の配列状況を詳述して比較や対比の可能性を示した。次にこの「英雄本」について研究すべき課題と未解決の問題を挙げ、日本文学の研究成果が新たな視点をもたらす可能性を論じた。最後にひとつの知見たりうるものとして、従来の研究ではほとんど省みられることのなかった「聖者」に注目し、その用例を記述した。この「英雄本」では、管見の限り他に例を見ないほど多くの聖者が言及される(ないし登場する)からである。 ドイツ語で執筆した第2論文では、この「英雄本」の聖者に関する記述を網羅的かつ包括的に検討し、その出現傾向を明らかにした。同時に、「英雄本」と同じような聖者の出現傾向をもつ文芸作品があることに注目し、この研究を進めることで「英雄本」の成立地をめぐる議論に貢献できる可能性があることも示した。従来の研究では、英雄叙事詩の文体と聖者伝説の文体の近似性がすでに指摘されているが(Albert Gierなど)、聖者そのものの出現頻度に注目するのは新しい視点であり、今後の発展が期待されるという評価が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に平成25年度の計画として記した「Dawn Poetry」に関しては研究を進めているものの、論文の発表には至らなかった。しかし「英雄本」に関する上記の成果が評価され、ドイツのある中世文学研究者から、若手研究者養成プロジェクトへの申請(ドイツ研究振興協会)に海外研究協力者(分担金なし)として参加の要請を受けた。そのため全体としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の推進方策は以下の予定である。 1.平成24年度に論文を発表できなかった課題である「文学と歴史」および同25年度の「Dawn Poetry」につき、さらに研究を進める。具体的には、内外の研究者から助言を受けて追加した史資料およびそれらに関する研究成果を取り入れ、より精緻な考証を進めて成果を発表する。 2.英雄叙事詩の語彙についてはさらなる知見も得られたので、これも発表する。
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Research Products
(2 results)