2011 Fiscal Year Research-status Report
ロドルフ・テプフェールにおける物語技法と領域横断的表現の関係
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23520362
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
森田 直子 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (40295118)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | テプフェール / スイス・ロマンド文学 / 絵物語 |
Research Abstract |
19世紀前半のジュネーヴの作家ロドルフ・テプフェールが制作した絵物語(版画物語)の、領域横断的メディアを生かした物語技法の解明が本研究の目的である。比較的先行研究の多い社会文化史の観点よりも、テクスト分析、物語展開におけるユーモアと風刺性の創出方法に重点をおいている。23年度はテプフェールにおける18世紀フランスの美学・観相学・俳優演技論からの影響を論じることを目的のひとつとして、身ぶり・しぐさのコードに関するD.ディドロやラヴァーター、J.-J.エンゲルらの美学的議論と、テプフェールの絵物語における人物の顔としぐさの表現技法との関連を分析した。その研究成果は論文「R.テプフェールの版画物語における身ぶりを論じるための予備的考察」にまとめた。また、カリカチュアとサタイア文学の系譜のなかにテプフェールの絵物語を位置づけるという課題も23年度の計画に入っていたが、絵物語のシナリオ草稿や自筆本へのメモ書きを検討する過程で、テプフェールが風刺性よりも物語としての喜劇的メカニズムを重要視していたと判断した。さらに、9月のジュネーヴ美術歴史博物館での調査により、テプフェールが絵物語を最初から数十ページの「本」という形で構想したこともわかった。今後の研究において、個別の絵における人物表象・ミメーシスの問題と並行して、性格喜劇や寓話、民話特有の構造を取り入れた劇作法に注目していくという方針を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まずは、東日本大震災による被害により、年度当初の1ヶ月あまりは研究のための設備・環境が整わず、必要な書籍の入手も困難となったため、テプフェールにおける18世紀フランスの美学・観相学・俳優演技論からの影響をまとめるのが2ヶ月ほど遅れた。また、実際に取り組んでみると、先行研究の書誌情報に多くの不備があり、テプフェールとエンゲルとの直接の影響関係の検証が困難であることがわかったため、研究成果は仮説を含む「予備的考察」にとどまっている。23年度に予定していた絵物語の身振り表象システムに関する研究結果については、版画物語の全テクストの詳細な検討と並行して24年度以降に補完していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
カリカチュアとサタイア文学の系譜との関連、および喜劇的メカニズムについて研究をすすめるため、「カリカチュア」の意図がもっとも明瞭な『アルベール物語』のテクスト分析に着手する。最晩年の作品を見ることで、それ以前の作品についての展望が得やすくなることを期待している。性格喜劇や寓話を継承した劇作法については、モリエールやラ・フォンテーヌ、フロリアンからの影響に注目する。23年度の分析の対象からはずれた、美術史上のカリカチュアとの関連については、24・25年度に父親のアダム・テプフェールからの継承を中心として調査することとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「次年度使用額」が生じた主な理由は、上述の研究の遅れにより研究協力者との打ち合わせの準備が予定通りに進まなかったことにある。当初23年度末に予定していた打ち合わせを24年度前半に行う予定にしており、そのための経費を平成24年度請求額とあわせて使用する予定である。
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Research Products
(1 results)