2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520371
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
山口 裕之 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (40244628)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ベンヤミン / 救済 / 身体性 / 技術性 / 魔術性 / ユダヤ主義 |
Research Abstract |
本研究の1年目となる平成23年度には、ユングの「集合的無意識」の概念とマルクス主義的コンテクストにおける「集団」の問題が、ベンヤミンの思想においてどのように結び付き、「集団的身体」という彼の逆説的な概念のなかで、どのように技術性と身体性という両極的な要素が結合されているかを考察することを目標としていた。 研究の過程で、この問題関連にとっては、ユングの集合的無意識の問題そのものに深く入り込むことにはそれほど意義がないということが見えてきたため、研究の方向を一部修正し、マルクス主義的コンテクストにおける技術と身体性の問題にむしろ焦点を合わせていくことになった。その連関において、すでに執筆済みの論文「ベンヤミンのシュルレアリスム」(岩波書店『思想』印刷中)をさらに敷衍させるかたちで、論文「〈集団もまた身体的である〉――ベンヤミンの〈人間学的唯物論〉」(保坂一夫先生記念論文集寄稿論文、提出済み)を執筆した。この論文は、「人間学的唯物論」と呼ぶことのできるベンヤミンの独特なマルクス主義的思考の特質を、複製技術論やシュルレアリスム論などのテクストにみられる技術性と身体性の結合から考察するもので、本研究の最初の段階にとって非常に重要な足場となるものである。 今年度はさらに、副産物的なかたちで、技術性と身体性の問題の周辺領域にかかわる論文「カール・クラウスと新ウィーン楽派」を執筆した。この論文は、直接的には新ウィーン学派の作曲者たちへのウィーンの批評家カール・クラウスの影響関係を論じたものだが、とりわけ第一次世界大戦頃までのクラウスに顕著にみられる保守的な技術観・芸術観、そして独特な言語観と結びついた身体性の問題は、本研究にとっても重要な意味を持つものである。 また、来年度以降の研究を先取りするかたちで、ある程度、ユダヤ主義や「救済」をめぐる文献の講読・資料整理を開始している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度執筆した論文「〈集団もまた身体的である〉――ベンヤミンの〈人間学的唯物論〉」(保坂一夫先生記念論文集寄稿論文、提出済み)では、ベンヤミンの「パサージュ論」のなかで言及している「集団的無意識」(ユング)にもふれながら、技術性と身体性という一見両極的な要素をベンヤミンがいかに彼の思考の中で統合し、彼の独特なマルクス主義的思考が形成されているかということについての、ひとまずの見取り図を提示することができた。この論文は本研究の当初の計画にほぼ沿ったかたちで構想されたものであり、その意味で本研究は、初年度の段階としては非常に順調に進められていると考えることができるだろう。 また、来年度以降の研究を念頭に置きながら、文献の収集・整理を行っており、その点でも研究の経過は順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目となる平成24年度は、西欧ユダヤ主義における「救済」概念の分析を中心に据えた研究を行う。ここでは、ベンヤミンだけでなく、主にエルンスト・ブロッホ、ローゼンツヴァイク、ショーレムなどの著作の分析を行うことになる。これらの思想家については、もちろんすでに多くの研究者が考察の対象としている。しかし、本研究では最終的には、ベンヤミンにみられる唯物論とユダヤ主義の結合、そして魔術的要素と結びついた身体性と技術性の結合といった問題へ収束していくものとして研究を進めていく。 これらの思想家のテクスト分析だけでも大半の時間を要することになるが、彼らの思考における「救済」概念の特質を明らかにし、最終年度で「技術性」の問題に結び付けていけるような方向で論文を執筆することが今年度の目標である。最終的には、ベンヤミン(さらには同時代のユダヤ人思想家)における救済概念・歴史概念と技術性・身体性を主題とする著作の完成を目指しており、来年度の研究はその重要な一部をなすことになるだろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、引き続き西欧ユダヤ主義関連、ベンヤミン研究関連の文献の購入、必要な機器の購入、および研究調査のための旅費が中心となる。平成23年度に割り当てられていた直接経費120万円のうち、約20万円を翌年度に繰り越すことになったが、これは23年度に予定していた出張を諸々の理由で減らしたことが大きい。また、研究補助を行ってくれていた大学院生が、論文執筆や留学準備のために勤務時間を減らし、謝金の額が多少少なくなったこともある。資料整理とテクストの電子化を平成23年度に引き続き行いたいが、現在のところ担当できる人材のめどが立たず、この関連での研究費使用は場合によっては難しいかもしれない。ただし、可能な状況になれば、もちろん積極的に活用していきたい。いずれにせよ、必要な文献の購入と機器の購入のために、24年度に予定されている90万円に加えて、繰り越し分の20万円を有効に使用することには何の問題もない。
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Research Products
(1 results)