2013 Fiscal Year Annual Research Report
「16世紀絵入り年代記集成」の文献学・図像学的研究
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23520374
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
中澤 敦夫 富山大学, 人文学部, 教授 (90242388)
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Keywords | 年代記 / 中世ロシア / 写本挿画 |
Research Abstract |
最終年度(平成25年度)では、前年度までに作成した「年代記集成」のテキストと挿画のデータを用いて、主に1380年『ドン川におけるドミートリイ・イワノヴィチと諸公の戦い』、1382年『トフタムィシ=ハンのモスクワ攻略とリャザン占領の物語』の部分について、挿画絵師によるテキストの独自解釈に注目しながら、年代記記事と挿画の対照分析を行った。その結果、主要な人物や背景設定については、「年代記集成」全体に共通する伝統的な画法が用いられているが、幾つかの副モチーフにあたる部分の描写では、独自な解釈が行われていることが分かった。また、それらはおおむね、人物を称賛、聖化する方向をもっていることも判明した。 この分析は、原写本の300葉分を対象としているとは言え、年代記全体に比べればわずかな部分に過ぎない。他の部分についても同様な傾向が見受けられるかどうか、また、年代記記事の時代によって、挿画絵師の独自解釈には違いがあるのかどうか、等の興味深い課題が浮上した。これについては、計画的に研究対象を定めて、引き続き分析に取り組んでいきたい。 なお、図像学的研究については、平成25年7月に、2年前と同様に、図像学の研究方法に関する研究発表を「日本ロシア文学会中部支部の研究発表会」で行った。さらに、平成25年12月にロシアのペテルブルグに出張し、16世紀の年代記の編集史研究、聖人伝の図像学研究を行っているロシアの研究者たちと意見を交換することができた。
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