2011 Fiscal Year Research-status Report
ヨーロッパ的コンテクストにおけるロシア・アヴァンギャルドの美的原理
Project/Area Number |
23520382
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
GRECKO Valerij 神戸大学, 国際文化学部, 非常勤講師 (50437456)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | アヴァンギャルド芸術 / ロシア文学 / 記号論 / 国際情報交流 / ドイツ:チェコ:エストニア |
Research Abstract |
本研究は、アヴァンギャルド芸術について普遍的な考察を可能にする美的概念を規定することを課題とする。23年度の課題は、研究対象をまずロシア文学の分野に限定し、具体的なテクスト/言語実践からアヴァンギャルドの一般的傾向について考察し、記号論的なアプローチによって特徴的なメルクマールを抽出することだった。研究の成果は次の通りである。1.1920年代の文学作品をカーニバル化とグロテスクという観点から分析した結果、「動物の人間化」というモチーフが繰り返し登場すること(典型的な作品としてブルガーコフの中編小説『犬の心臓』がある)、さらにこのモチーフは他の芸術ジャンル(たとえば、最近発見されたショスタコーヴィチの未完のオペラ「オランゴ」)でも見られることがわかった。このモチーフはアヴァンギャルド芸術の「異化」の美学から生まれたものであると同時に、誕生したばかりの新国家ソ連の政治的コンテクストとも関連している。つまり、ソ連のユートピア的イデオロギーのひとつが「新しい人間」を生み出すことだったのである。2.1910-20年代に書かれた詩と、アヴァンギャルドの後継者たちによるその後の時代の詩を記号論的な観点から分析すると、それらの詩においては意味論的な側面ではなく、統語論的・語用論的な側面が重要な機能を果たしていることが明らかになった。すなわち、アヴァンギャルドの言語芸術では要素の組み合わせの原則が支配的であり、読者/観客とのインターアクションにおいてはパフォーマンスが決定的に重要である。3.ユーリ・ロートマンはその記号論的著作の中で、文化は単一言語的なものではなく、多言語的な性質をもつと主張している。この考え方はアヴァンギャルド研究に有用である。なぜなら、アヴァンギャルド芸術も―「アヴァンギャルド」とひとくくりにされてはいるものの―多種多様な芸術実践の集積だからである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
23年度の課題だったロシア文学の記号論的アプローチによるテクスト分析と、アヴァンギャルドの一般的傾向に関する考察に関しては、計画通り進捗している。23年度は分析対象をロシア文学に限定する予定だったが、「動物の人間化」というモチーフについて考察した結果、文学のみならず音楽の分野にも手を広げることになり、24年度以降の研究を先取りすることができた。さらに、ロシア・アヴァンギャルドとソ連の政治との関連という新たな研究テーマも視野に入ってきた。 また、申請時には予定していなかったが、23年度には本研究のテーマに関連するシンポジウムや国際会議が日本国内およびヨーロッパ各地で開催され、4回も発表することができた。特にチェコとエストニアで開催された国際会議では、数多くの専門家に会って意見交換を行うことができ、大変有意義だった。また、日本ロシア文学会での発表は「革命のカーニヴァル:グロテスクと1920-1930年代のソ連文化」というパネルディスカッションの中で行われたものだったので、本研究テーマをより広い視野から考察することができ、さらに日本の研究者たちとのネットワークを構築することもできた。
|
Strategy for Future Research Activity |
24年度には、文学に見られたメルクマールおよび創作原理の、その他の芸術活動における発現の検証を行う。主に絵画(マレーヴィチ、カンディンスキー)と映画(エイゼンシュテイン)を分析対象とするが、その際、具体的な作品のみならず、芸術家自身が著した美学的理論的著作を考慮に入れる。マレーヴィチは1924年から26年まで、レニングラードで「芸術文化研究所」の所長を務めていたが、この研究所ではアヴァンギャルド芸術の原理についての研究がさかんに行われた。研究所は1926年にスターリニズムによって閉鎖に追い込まれ、ここでなされた研究は今日に至るまであまり知られていない。本研究では造形芸術の分析に際して、この「芸術文化研究所」における研究成果をできるだけ取り入れたいと考えている。また、エイゼンシュテインの理論的著作の大部分は長らく一般には入手不可能だったが、近年相次いで出版された。これらの著作についてはまだ十分な研究が行われていない。本研究ではこれらの新しい資料をもとにして映画や舞台芸術について考察したい。 25年度には、特定の言語文化圏を超えたアヴァンギャルド芸術の特徴に関して考察し、23年度と24年度の研究成果を国際的なコンテクストで比較検討する。その際、どの特徴や原則がロシア・アヴァンギャルドに固有のものか、あるいは文化圏を超えて存在しているものかを考察する。主な分析対象になるのは、ヨーロッパ的な広がりを見せたダダイズムとドイツのバウハウス運動、イタリアにおける未来派である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
歴史的に希少な資料については早稲田大学演劇博物館、ボッフム大学ロートマン研究所(ドイツ)、ベルリン自由大学(ドイツ)、タルトゥ大学(エストニア)などの協力を得る(国内旅費・外国旅費、コピー代)。芸術作品の分析に際してはゲオルク・ヴィッテ教授(ベルリン自由大学)やペーター・トーロップ教授(タルトゥ大学)、コルネリア・イチン教授(ベオグラード大学)と意見交換を行う(外国旅費)。研究に必要な書籍で入手可能なものは購入する(設備備品費)。研究成果については国際学会等で発表を行い(外国旅費)、論文にもまとめる(コンピュータ関連消耗品費)。
|
Research Products
(6 results)