2011 Fiscal Year Research-status Report
ステファヌ・マラルメ文庫の総合的調査による19世紀末<文学場>の書誌学的研究
Project/Area Number |
23520383
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中畑 寛之 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (70362754)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 国際研究者交流 / フランス / ステファヌ・マラルメ / データベース / 書誌学 |
Research Abstract |
本年度は9月に、ヴュレーヌ=シュル=セーヌ県にあるステファヌ・マラルメ記念館が保管する詩人の蔵書を2週間にわたって調査し、その目録の電子化および書誌情報の確認・修正・追加等を行った。個々の詳細なデータについてはまだ作業の緒についたところだが、学芸員の方々の助けもあり、記念館が所有するマラルメ文庫の内容はおおよそその全貌を把握することができた。マラルメ旧蔵本のうち、記念館は現在859冊(英語文献・雑誌160冊を含む)を所持するだけでなく、今も予算と状況の許す限り収集を続けていることもわかった。Angus Kennedy の調査で判明していた蔵書と記念館の蔵書はフランス語文献に関しては重複するものがなく、したがって少なくとも約1000冊についてかなり正確なデータを集めることができそうである。書簡集・古書カタログ等からの情報も併せ、マラルメの手が頁を繰った約1200冊がこれまでに確認されたことになる。 ただ残念なことに、2011年7月、ある書店の売立てにおいて、カタログも作られないまま、マラルメの蔵書がいくつか散逸してしまった。そのなかに本研究の重要な対象のひとつであったエルネスト・ルナン『聖パウロ』が含まれていたことは、大きな痛手である。Kennedy による調査結果はあるものの、準備していた論文の実証性が失われ、説得力が落ちたと思われたため、発表を先送りせざるを得なかった。 代りにバルザック『ルイ・ランベール』に興味深い書込みを見つけることができたが、他にも所蔵されているバルザック本すべてをまだ閲覧できておらず、マラルメが『人間喜劇』の作家をどう読んだかについても今後の課題とせざるを得ない。 結局、今年度は専ら書誌情報のデータ・ベース化、その追加・修正に費やされてしまい、論文や研究発表といった成果を示すことができなかった。来年度以降はきちんと研究成果をまとめていきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011度の調査でマラルメ記念館に保管されている蔵書の全体像をほぼ把握することができ、すでにデータベース化を終えていた Angus Kennedy の調査資料と比較照合を行えたことは大きかった。書簡集や古書目録等からの追加情報を併せて現時点で約1200冊を確認し、献本に対するマラルメの礼状についても順次電子化を進めているところである。とはいえ、詩人の蔵書のなかには状態のよくないものもあり、現物を一頁ずつ繰りながら書込みを見つけ解読する作業、そして詳細な書誌情報を確認しつつデータ修正していく作業はやはりかなりの時間と手間がかかるため、予定よりはやや遅れぎみであるかもしれない。しかし、記念館の学芸員の方々はきわめて協力的であり、また古書店などからの情報も少しずつ集まってきているので、初年度の進捗具合としてはおおむね順調と言えるのではないか。今回の調査を踏まえて、「マラルメの書斎」の概要を研究ノートとしてまとめることもできた。 とはいえ、蔵書への書込みからマラルメの思考形成を考えるうえで我々が最重要視していたエルネスト・ルナン『聖パウロ』が売立てによって散逸してしまい、それとともに今年度に準備していた論文は大きく書き改める必要が生じ、発表を先送りせざるを得なかった。バルザック『ルイ・ランベール』への興味深い書込みも見つけたが、論文として成立させ得るかはまだわからない。今後の調査結果と発見に期待したい。 以上、計画上の大きな痛手もあったが、それでも、所蔵が確認できた本のなかには我々の関心を惹くいくつもの本、また思いがけない本も少なからずあり、「書物を介して結ばれ維持される文学者たちの交友のあり方」、つまりマラルメが夢想した「文芸共和国」を思い描くうえで、少なくともこの最初の調査は非常に多くの収穫があったといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2011年度と同様ヴァルヴァンに滞在し、マラルメ記念館で2週間以上の資料調査を行い、可能な限り多くの蔵書を手にとってじっくり調べたい。百年以上の歳月を経て劣化した本の取扱いにはずいぶん慣れたと思うが、800冊を超える旧蔵本を一頁一頁確認するためには予想を超える多くの時間がこれから必要となるかもしれない。若手の在外研究などを活用し、長期滞在できる機会を手に入れられるようにも努力する。また、2012年度は大学業務の関係でフランスでの調査期間が十分確保できない可能性もある。しかしその場合でも、書簡集などからの情報入力をほぼ終わらせておくなど、データベース化の作業配分に工夫する。 ルナン『聖パウロ』への書込みに関する論文は書き改めて発表するつもりである。また、バルザックを読むマラルメというのも心惹かれるテーマだけれども、本研究においては他にも書込みが見つかった場合にのみ、考察の対象として取り上げることとする。それ以上に、マラルメの「文学基金」についてあらためて考えてみようと思う。彼が「文学基金」を提言する際に参照したのではないかと考えられる本が記念館の蔵書のなかに見つかった。同館には「文学基金」に対する同時代の反応を我々に教えてくれるフランス内外の新聞切抜きも保存されており、これらのテクストの電子化も並行して進めつつ、「文芸共和国」の経済的側面に関わるこの重要な問題に関して、最終年度を目標に、研究成果をまとめていきたい。 モークレールとギュスターヴ・カーンという二人の火曜会参加者に焦点を当て、彼らとマラルメとの交友を書誌学的観点から考えていくことは、当初から計画していた課題のひとつである。彼らのあいだで交わされた「精神の握手」を眼に見えるものとして具体化し、さらには「フランス象徴派の社会的かつ哲学的役割」と題されたカーンの自筆草稿も参照しつつ、<火曜会>の機能を再考する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
予定どおり、2012年度もマラルメ記念館での資料調査を行う。そのための予算を35万円とする。3週間弱、少なくとも2週間の滞在を確保したいが、勤務校での仕事の都合次第では難しいかもしれない。10日程度の期間で2度渡仏することもあり得るが、予算上限は35万円に留める。 記念館に寄贈するための、日本人によるマラルメ研究書等の購入費用として、8万円を計上する。購入を予定している本は菅野昭正『ステファヌ・マラルメ』(中央公論社)、佐々木滋子『『イジチュールあるいは夜の詩学』『祝祭としての文学 マラルメと第三共和制』(水声社)、立仙順朗『マラルメ ― 書物と山高帽』(水声社)など。鈴木信太郎『ステファヌ・マラルメ詩集考』(上巻、高桐書院/下巻、三笠書房)他、入手の難しい古い研究書が良好な状態で見つかれば、これらも適宜購入する。 書誌学に関する本など研究に必要な書籍代として7万円。これは、依頼していた関連書籍が昨年度中に入手できなかったため、多めに見積もっている。代わりに文具類やパソコン関連などの消耗品を前倒しで購入したので、今年度予算の使用はほぼ零としたい。
|
Research Products
(1 results)