2012 Fiscal Year Research-status Report
ステファヌ・マラルメ文庫の総合的調査による19世紀末<文学場>の書誌学的研究
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23520383
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中畑 寛之 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (70362754)
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Keywords | 国際情報交換 / フランス / ステファヌ・マラルメ / データベース / 書誌学 |
Research Abstract |
前年度よりひき続き、フォンテーヌブロー近郊にあるステファヌ・マラルメ記念館で約2週間、蔵書調査を行った。館が所蔵する蔵書のおよそ3分の2ほどの詳細な書誌データ、献辞や書込みなどの有無を確認し終えたことになる。今回調べた本にはマラルメによる書込みはほとんど見つからなかった。青年期、1860年1月にまとめて彼が購入したことがわかっているウシオー版ユゴー全集の各巻にも特に発見はなかった。傾向としてマラルメは書込みをしないタイプの読書家であったと結論できそうである。英語文献には翻訳のための多くの書込みがみられるのとは対称的である。 昨年夏に売立てられたエルネスト・ルナン『聖パウロ』を記念館が購入していることが判明したため、特別に閲覧させてもらうことができた。ミシュレの『人類の聖書』との比較を含め、論文執筆の準備を行なった。記念館の学芸員からも有益な情報を得ることができた。 書簡集などからも継続して、詩人が言及する本を確認している。60年代と70年代、および90~96年まではほぼ完了。集積したデータによって、マラルメがどんな本を読んでいたのか、その知の地平がかなり明確になってきたように思われる。研究者に有用な「マラルメの書斎」を刊行できる見通しが立ったように思われる。 2013年3月16-17日に慶應大学日吉校舎で行なわれたシンポジウム「マラルメは、現在……」において研究発表を行ない、『アナトールの墓』と通称される草稿群を取り上げた。このテクストは息子アナトールの病気と死を契機に書かれたものだが、その際、詩人はユゴーの『瞑想詩集』を読み直していたかどうかを実証的な形で視野に入れておくことができた。アナトールの死後、2、3年のあいだは書簡も少なく、当時のマラルメの様子もあまり判ってはいないのだが、この時期に刊行された本から交友関係や読書状況をわずかでも垣間見ることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は学内業務にやや忙殺されて、研究のための充分な時間が取れなかった。記念館での調査もなんとか時間を作ったといった感じで、やはり余裕がなかったと感じる。書簡集等での言及の確認に関してはかなり進展し、マラルメの礼状を併せ読み、彼の読書風景を具体的に想像できるようになってきたが、現地での実地調査がやはり重要な研究課題である以上、達成度に満足はしていない。最終年度は時間をかけて課題に取り組みたい。 昨年散逸したと思っていたエルネスト・ルナン『聖パウロ』は幸いにも記念館が購入していた。そのおかげで初年度に予定していた研究を継続することが出来るようになったが、ミシュレ『人類の聖書』も含め、読み直し作業とメモを取り直す程度で、論文にまで練り上げられていない。蔵書のなかにはアンリ・ルージョンが匿名で書いたルナン伝やガブリエル・セアイユの研究も含まれており、それらも念頭に視野を広げた研究として結実させたいと考えている。 蔵書からマラルメの思考形成を考えるという目標は、詩人があまり書込みをしない読書家であったらしいことが判明するにつれてなかなか実現が難しくなりつつある。もちろん今後に発見があるかもしれないが、テーマを幾つか絞って比較研究的な方法からのアプローチも考えざるを得ないであろう。この点でも本年度に予定していたモークレールとギュスターヴ・カーンの交友を書誌学的に考察することも進展しなかった。彼らの著作は点数が多く、書込みが見つからない以上、マラルメの関心の焦点を実証的に絞り込むのが難しいためである。この課題はカーンの「フランス象徴派の社会的かつ哲学的役割」と題された自筆草稿を検討することで、「文芸共和国」というマラルメの夢想との接点を模索したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は神戸大学から半年間の研究休暇をいただくことができたので、それを利用してヴァルヴァンの記念館での調査をきっちり終了させる予定である。書簡集・資料集からのデータ収集もできるだけ秋までに終えておきたい。本研究課題の最大の目的である「ステファヌ・マラルメの書斎」を完成させることを第一とする。秋以降には原稿の校正・修正ができるよう作業を進め、記念館で細かな点の最終確認をした後、冊子として印刷刊行し、内外の研究者および主要図書館への配布を行なう予定である。マラルメ記念館には蔵書の撮影許可を申請し、図版も幾つか入れられるようにしたい。 昨年の蔵書売立てで同館は詩人の遺族から本を購入している。可能であれば、その遺族に紹介してもらうことも考えている。望みは薄いが、もし実現すれば、記念館の本以外にまとまった形での調査が期待できる(そこには Angus Kennedy による調査で判明しているフランス語書籍を多く確認できるのではないかと想像している)。 調査と並行して、論文を順次まとめていきたい。ルナンおよびミシュレとの比較考察、カーンのテクストとの対照によってマラルメの「文芸共和国」を再考することの2点を中心に進めるつもりである。前者は単に所蔵本2冊だけに拠らず、他の関連書籍も含め、かつて論じたカトリックの問題を問い直し得るような広い視野から再考してみたい。後者は必然的に火曜会のあり方や90年代に提起された「文学基金」の問題が絡むことになるであろう。すでに所蔵を確認している同時代の新聞・雑誌の切抜きのほか、マラルメのテクスト発表と同じ年に刊行された、著作権に係わる詩人所蔵本も併読することによって、彼の夢想の意外な具体的側面に光を当てることを狙いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
最終年度も記念館での資料調査のための予算を30万円とする。研究休暇で半年程フランスに滞在して研究を進めるが、マラルメの蔵書カタログの印刷に入る前に再度ヴァルヴァンに滞在し、細かなチェックと確認を行なう機会としたい。その際の滞在は2週間弱を予定している。 マラルメ記念館に寄贈するための、日本人によるマラルメ研究書等の購入費用として15万円程度を考えている。これには昨年度、入手の難しい古い資料の購入を狙ったまま、結局購入できずに繰り越した予算が含まれている。予定しているすべての資料を購入・寄贈し、日本のマラルメ研究の成果を広く知らしめる一助にしたい。 「ステファヌ・マラルメの書斎」の印刷費として40万円を予定。当初より頁数がかなり増えると思われるが、版下入稿などで価格を抑えたい。また人件費を3万円とし、原稿の校正のために2名を雇用するつもりである。 その他を文具など必要な物品の購入に充てる。
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Research Products
(3 results)