2013 Fiscal Year Research-status Report
「マイナー文学」における「私」の比較研究-カフカ、R・ヴァルザーと日本の私小説
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23520385
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
古川 昌文 広島大学, 文学研究科, 助教 (60263646)
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Keywords | カフカ / ローベルト・ヴァルザー / マイナー文学 / 私小説 |
Research Abstract |
当該年度に行った研究内容を2点に分けて記す。 (1)資料収集・分類。前年度までに比べて分量は少ないが、カフカ、R・ヴァルザー及び日本の私小説関連の文献収集を継続して行い、データベースを補充した。当該年度は各データにコメントを付して作品/研究別及び内容傾向別に整理してきた(完成度は5割程度)。扱う作家が限られているとはいえ、「マイナー文学」の観点から西洋と日本の近・現代文学を比較しうるこうしたデータベースは従来なく、本研究はもとより今後の類似の研究の出発点となる。 (2) R・ヴァルザー、カフカ、日本の私小説の比較。ヴァルザーによる「私」の表現が自伝的手法を取って内面化に向かうのに対して、カフカはヴァルザー的手法を取り入れつつ、ヴァルザーとは逆に「私」の外部化に向かう傾向を明らかにした。他方、日本の私小説(心境小説)は伝来の日記文学に西洋から入ってきた自然主義が接ぎ木されたとみなされることが多いが、実際には内面性(自己告白、暴露)を基調とするものから幻想的性格へと向かう傾向へと変化してきており、機械論的・運命論的な西洋自然主義の影響は限定的であるという認識を得た。また、影響関係は別として(日本でほとんど読まれていないヴァルザーは日本の作家への直接的影響はほとんどないと思われる)、ヴァルザーからカフカへの表現手法の移行・変化は、日本の告白的私小説から幻想性を纏う私小説へ向かう傾向と通底するものがあることを明らかにしてきた。その成果の一端は学会(広島独文学会)で口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究プロジェクトはマイナー文学という観点から作品に表現される「私」の様態について、①ヴァルザーとカフカ、②ヴァルザー=カフカと日本の私小説、という二つのレベルで比較し、西洋を中心とした場合の辺境に位置する文学の一特性を明らかにすることにある。しかしながら、研究を進める中で扱う作品や研究の分量が予想以上に多くなったため、①、②ともに潜在的な成果は得られているものの、一部を除いて、その多くが未だ研究発表や論文の形で公開するに至っていないのが現状である。 また、私小説の表現形態が当初の予想を超えて多様であったため、当初の比較の視点・方法を部分的に変更することにしたことも、予定よりも進捗が遅れている一因である。 以上の理由により、1年間の期間延長の申請を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の遂行には遅れが生じているが、下記に述べる小変更を除き、研究の枠組自体に変更はない。「現在までの達成度」で述べた理由により、未だ潜在的なものに止まっている研究成果を口頭発表や論文の形で世に問うていくことが今後の研究の中心となる。 今後の研究においては、比較の視点を「〈私〉の様態の比較」から「〈私〉の表現形態の比較」へとシフトさせる。当初計画していた「〈私〉の様態」は抽象度が高いため、抽出や検証が困難であることがわかってきた。そこで「〈私〉の表現形態」という表層次元に視点をシフトすることによって、〈私〉の表現パターンを明示的に記述することとした。 成果発表の内容は、「カフカとヴァルザーの比較」と「ヴァルザー=カフカと私小説」の二つを両輪とするが、計画の最終年度となるので、口頭発表や短い論文の他に両者を統合した研究論文を発表する準備を進めている。後者は比較的大部なものになる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じたのは、「現在までの達成度」に記したとおり、研究が計画より遅れていることに因る。それにより、予定していた海外の学会発表・資料収集を取り止めたことが未使用額の過半を占める。その他、国内学会での研究発表や学会誌の論文発表を次年度に回すなどの措置に伴う旅費や諸経費の未使用が次年度使用額を生じせしめることとなった。 次年度に使用する予定の研究費は消耗品等の雑費(全体の1割以下)を除き以下の3点に分けられる。(1)旅費。学会・研究会での発表及び資料収集のため、国内旅費を3件、海外旅費を1件(オーストリア)計画している。(2)資料収集。新たに購入する図書は少ないが、既に注文済のものがあり、合わせて10万円程度の図書購入費が必要である。(3)印刷費等。研究成果の報告書をまとめるために研究費を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)