2011 Fiscal Year Research-status Report
18世紀中葉におけるライプツィヒ派の演劇改革とザクセン喜劇の生成および受容
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23520386
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小林 英起子 広島大学, 文学研究科, 教授 (60571065)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ドイツ演劇 / ザクセン喜劇 / ノイバー劇団 / ゴットシェート教授 / ゴットシェート夫人 / クヴィストルプ / レッシング / ハルレキーン |
Research Abstract |
ゴットシェートの『批判的詩学の試み』(1730)における喜劇論を考察した。ザクセン喜劇を収めた『ドイツ戯曲集』からクヴィストルプの『山羊裁判』(1744)を中心に裁きと諷刺の特性を、ゴットシェート夫人作『遺言状』『フランス女家庭教師』と比較考察し、論文「ザクセン類型喜劇における「裁き」と諷刺 ―クヴィストルプの『山羊裁判』とゴットシェート夫人の『遺言状』を例に」を発表した。(「ドイツ語文化圏研究」9号 日本独文学会北陸支部編 2011年) クヴィストルプ作『心気症の男』(1745)、ゴットシェート夫人作『身分違いの結婚』『フランス女家庭教師』、ゲラート作『病妻』等におけるヒポコンドリー描写の諸相と、喜劇に反映した医学的知識を明らかにした。迷信と科学や理性万能主義の間で、不安定な精神状態やヒポコンドリーになる人が相当いたことを「ザクセン喜劇におけるヒポコンドリーの諸相と医学」の中で発表した。(「広島大学大学院文学研究科論集」第71号2011年) 8月ケルン大学で文献調査を、ライプツィヒで現地調査をし、ザクセン喜劇ゆかりの場所を探索した。歴史博物館を見学し、サロン文化の様子を探求した。啓蒙喜劇では演劇改革でハルレキーン役が消滅し、レッシングでは召使リゼッテがその代役を努め、他の劇作家はラテン語を解する賢い下僕を描いた。家僕が喜劇性と理性も担う役に変化することを"Botschaft der Komik oder Uebermittelung von Vernunft? -Zu Dienerfiguren in fruehaufklaererischen Komoedien" と題し日本独文学会文化ゼミナールにて2012年3月口頭発表した。2011年11月には「啓蒙の寓話における擬人化-レッシングとリチャードソンにおける描写の比較」を日本独文学会中国四国支部学会で口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011年度は研究書の購入、文献収集と調査を積極的に行なった。大学図書館の相互貸借もよく利用した。ザクセン喜劇の主要作品のうち、クヴィストルプの『心気症の男』、『山羊裁判』、ゴットシェート夫人の『遺言状』『フランス女主人』、レッシング作『女嫌い』を分析した。 2011年8月、ライプツィヒで現地調査を行ない、ゴットシェート教授夫妻の住居跡、ゲラートの像、若きレッシングの下宿跡、カロリーネ・ノイバーが構えた劇団跡やその後の移動劇団跡地を歩いて回り、当時の生活空間における位置関係を確認することができた。ライプツィヒの国立図書館やニーダーザクセンの図書館が改修中のため、一部の文献しか閲覧を許されず、収集の点では達成度が高いとは言えなかった。しかしながらレッシング・アカデミーを訪ねて、レッシング喜劇の当時の上演資料や舞台批評に関する資料を閲覧できた上に、ノイバー博物館の存在を教えてもらい、予定外の博物館をザクセン州ライヒェンバッハまで訪ねた。演劇史では記述が少ないノイバー夫人の生涯、功績、脚本について学んだ。2012年3月ドイツを再訪し、ケルン大学演劇文庫にて集中的に古い演劇文献を閲覧・資料収集することができた。 これまでの研究成果を、論文「ザクセン喜劇におけるヒポコンドリーの諸相と医学」と「ザクセン類型喜劇における「裁き」と諷刺 ―クヴィストルプの『山羊裁判』とゴットシェート夫人の『遺言状』を例に」の2篇にまとめた。ドイツでの現地調査の資料を反映させて、"Botschaft der Komik oder Uebermittelung von Vernunft? ― Zu Dienerfiguren in fruehaufklaererischen Komoedien"を日本独文学会文化ゼミナールにて口頭発表した。レッシングの寓話における啓蒙思想と擬人化についても研究発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度購入した原書や文献調査で収集した資料を読破して整理し、さらに分析を進めたい。演劇作品を読み出す方が先になり、昨年度あまり読むことができなかったスイスのブライティンガーの『批判的詩学』(1740)に目を通して、その喜劇論の特徴を探り、ライプツィヒのゴットシェートの喜劇論と比較したい。 昨年調査したノイバー劇団の足跡と上演レパートリーをもう一度整理・検討し、演劇改革の経緯とその功罪を明らかにしたい。ノイバー劇団で演じた俳優や当時の演劇関係者の交流をたどることで、ザクセン喜劇の受容の実際を明らかにしたい。ノイバー夫人作『羊飼いの祝祭あるいは秋の友人』(1753)における喜劇性と道化役不在の特徴についてもゴットシェート教授の演劇理論に照らして考察してみたい。 また、『ドイツ戯曲集』の中から、ゴットシェート夫人作『身分違いの結婚』(1743)、クリューガー作『候補者あるいは官吏にいたる手段』(1748)を中心にとり上げ、政略結婚や立身出世を望む市民階級の姿を時代背景に照らして考察し、その喜劇性と諷刺について明らかにしたい。 レッシング初期の喜劇からは、学者を気取る『若い学者』(1747)を精選し、どの程度までゴットシェート派の理論にかなっていて、どの程度、新しい創作部分なのか、詳しく検討する。 研究成果の一部を9月19日、ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州ユールリヒ市に於いてロータリークラブ文学の集いで講演することになっている。18世紀中葉におけるライプツィヒ派のサロンの姿と演劇改革の経緯について、学会で発表する予定である。この時代の愉快な喜劇作品群と特徴的な登場人物および道化役の変遷について、市民講座等で一般の人々にも紹介してみたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、研究に必要なドイツ演劇・ドイツ文学関係の新刊原書を購入したい。ドイツ語洋書については、約10万円の支出を予定している。同じくフランス演劇関係の洋書に2万円を、他のヨーロッパ演劇関係の洋書に3万円をあてて図書収集を行ないたい。日本語の演劇理論書についても5万円分相当の予算をあて、計20万円を使って基本的な研究文献を揃えたい。さらに国内・国外の図書館に所蔵の貴重文献は、複写・マイクロフィッチ、マイクロフィルム等にして入手したい。それらの郵送通信費に1万円を予定している。インク・文房具関係に1万円をあてる。 文献を整理、読破した上で、私の専門分野外のことについては、専門的に伺える方に知識を乞い、その謝金として2万円を予定している。これまでの研究成果は論文にして学会誌に投稿をしたい。ドイツ語で執筆する論文については、ドイツ語校閲できる方にご指導を仰ぎ、校閲料として2万円を予定している。 9月予定しているドイツでの研究発表では旅費は他からの資金をあてるつもりである。国内での研究発表は、現在申し込み準備中であるが、その旅費に5万円を予定しており、研究打ち合わせの会合に旅費2万円をあてることにしている。 論文別刷り費として2万円を、市民講座資料印刷費として1万円、ホームページ作成費として4万円をあてる予定である。 以上のように、次年度の研究費は合計40万円となる計画である。
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