2011 Fiscal Year Research-status Report
新概念「亡命の文化テキスト」の確立ー東アジアへの亡命研究を通して
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23520394
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
PEKAR Thomas 学習院大学, 文学部, 教授 (70337905)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 亡命 / 亡命文学 / 異文化研究 / 文化接触研究 / 文化テキスト / 移住 / 移民文学 / 超文化研究 |
Research Abstract |
本年度は、「テキストとしての文化」という文化人類学の基礎概念を検証し、「亡命の文化テキスト」という概念を規定した。概念「文化テキスト」は、亡命や移住といった現象が文学作品に反映され、分析され得ることを意味している。本概念は、以下の二つの文脈から検証された。a)第二次世界大戦中、日本へ亡命し、ドイツ語で文学作品を発表した亡命者(カール・レーヴィット、クルト・バオホヴィッツ、クルト・ジンガー)の作品分析。成果については、論文 „Kultur-Texte des japanischen Exils: Karl Löwith, Kurt Bauchwitz und Kurt Singer"に発表した。b)概念「文化テキスト」の移民文学への適用(その際、ドイツ語を母語としない作家によって書かれた現代ドイツ文学作品が扱われた。)これらについては、2012年3月にアムステルダムで開催された亡命研究学会で議論された。これらの分析により、亡命文学および移民文学において、概念「文化テキスト」が有用であることが実証された。一方で、亡命や移住が、ある一つの文化という枠組みを超えていく現象を伴うため、「文化テクスト」は「超文化テクスト(Transkulturalitätstext)」と言い換えられることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
亡命と移住の観点から、概念「文化テキスト」を規定することができた:亡命と移住の両ケース共に、文学作品における文化的立地点が2つの(あるいは更に多くの)文化の中間、すなわち、亡命者が追放された故郷の文化と受け入れ側の新しい文化の中間にあることが明らかにされた。そのため、このような「超文化」的な立地点が、これまで十分に研究が進められていない、超文化研究の文脈で考察される必要がある。概念「文化テキスト」の解明は、国内の研究会での議論のみならず、ドイツ人研究者(D. バッハマン・メディク(上級研究フェロー、ギーセン大学、ドイツ) I.フォンデアルーエ (教授、ベルリン自由大学)と共同研究者)との議論の成果、また、ベルリンの国立図書館他における資料収集の成果である。今後も、文化人類学の文化解釈学的研究(クレフォード・ギアツ等)に基づき、文化テキストの理論的前提の研究を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
概念「亡命の文化テキスト」の規定を行なった結果、文化の判読の可能性・不可能性について検討する必要が生じた。文学研究内に起こった「文化人類学的転換」は、すなわち、「テキストとしての文化(Kultur als Text)」という理解は、文化的世界と実践が判読および描写可能であることを前提としているが、今後、特に、文化接触の観点から、異文化理解の限界、異文化を知ることの限界について研究される必要がある。つまり、どの程度まで、それぞれの文化が「判読不可能性」の要素、他の文化から理解され得ない要素を持っているのか、分析される必要があることが明らかになった。これらの議論は、3週間毎に行なわれている12名からなる日独研究者の研究会において継続される。また、2013年9月には、「文化の判読可能性の限界―文化接触モデル(Grenzuen der Lesbarkeit von Kulturen. Kulturkontakt-Modelle)」というタイトルで国際学会を開催する予定である。本国際会議において、1)日本における「亡命」についての理解と、ユダヤ人に対する日本の態度を中心に東アジア(特に日本および上海)への亡命に固有の社会的枠組みを解明し、2)東アジアへ亡命したヨーロッパ人亡命者の個々のケースと、そのナレーション(文化テキスト)を詳細に分析、分類のモデルの構築を試みる計画である。2012年度の計画は以下の通り:a) 亡命の文化テキストの観点から、ドイツ、特にベルリンで資料収集を行なう。(なお、研究実施計画書に予定さいれていた、エルサレムのヤド・ヴァシェム資料館での資料収集は、資料収集のために、より綿密な計画が必要なため、延期とする。)b) 研究会での議論の継続
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1) 文献収集 のための海外渡航費収集場所:ベルリン、ウィーン、オーストリア亡命資料館 等収集資料:日本および上海における「亡命」に関する文献(社会的枠組み解明)(2) 収集した資料の整理および文献翻訳のため大学院生を雇う(3) 研究に必要な図書および備品購入
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Research Products
(9 results)