2011 Fiscal Year Research-status Report
同時代のインド学と言語学を通して見たマラルメの言語観の形成に関する研究
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23520395
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大出 敦 慶應義塾大学, 法学部, 准教授 (90365461)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 仏文学 |
Research Abstract |
2011年度はマラルメが仏教=ヘーゲルから理解した言語における虚無観念の分析と同時代の言語学との関連を探るため、次のような研究活動を行った。 1)マラルメの同時代の仏教学・言語学・修辞学・詩法の文献収集。仏教学・言語学のほかに修辞学・詩法の文献を加えたのは、修辞学・詩法がマラルメの虚無の発見と言語学的関心を育んだと考えたためである。にもかかわらずこれまで同時代の修辞学の観点からマラルメを分析したものは多くはなく、またこれをマラルメの虚無発見と結びつけたものはほとんどない。そこで修辞学をマラルメの言語学的関心の前段階と位置づけ、本研究の起点とすべく同時代の修辞学・詩法の文献収集を重点的に行った。 2)「エロディアード」の「古序曲」の分析。これらの文献をもとにマラルメの「エロディアード」の「古序曲」を分析した。「古序曲」を本研究の序章的なものとしたのは、この作品が虚無の発見の直接的契機となっているためである。正確にいえば「古序曲」の詩の技法から虚無が発見されたと考えられる。そのことを実証するためにエドガー・アラン・ポーの所謂「効果の詩学」と関連づけて論じた。ポーは特定の母音が悲哀を表すことを利用して「大鴉」を構成したように、マラルメも特定の母音の音がある種の効果を生み出すように「古序曲」を構成しようとしたと考えられる。すなわち母音には原初の観念が本質としてあり、詩を通してその本質が浮かび上がってくるようにしようとしたといえよう。その際、マラルメは伝統的な修辞技法を利用してそれを実現しようとしたが、最終的にマラルメが想定した効果は生み出されず、「古序曲」は破棄される。一方、マラルメはそのことから本質は存在しないという虚無に陥ったと結論づけた。この分析は「赤の神話学--マラルメ『エロディアード 古序曲』読解の試み--」として『教養論叢』(慶應義塾大学法学研究会)に掲載予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2011年度は研究目的に沿って、すでに予備的な研究を行ってきたマラルメの仏教・ヘーゲル思想受容と「イジチュール」「言語に関するノート」の作品分析とを統合し、マラルメの虚無観念と言語学とを関連づけるする予定であったが、その前にマラルメが当初、抱いていた虚無とはどのようなものであったかを考察する必要を感じるようになったため、研究計画にはなかった「エロディアード 古序曲」の分析を行ったため、当初計画していた予定よりもやや遅れる結果となってしまった。「エロディアード 古序曲」は、実際、マラルメが虚無観念を発見する直接的な契機となったものであり、そうした意味ではこの作品はマラルメの内部に虚無を引き起こした原因を秘めているものである。こうした理由からまず本研究の序章的なものとして分析する必然があった。 また2011年度は3年計画の初年度にあたり、研究上必要な文献を集中的に収集することになったが、古書が中心であったため、当初予測していた期間では思うように集まらなかった。また東日本大震災の影響で、研究費の30パーセント減の可能性があるため予算の執行を慎重にという指示があったため、図書・文献の購入に力点をおけるようになったのが遅くなってしまった。結果的には研究費の削減はなかったものの、十分な資料を収集しきれなかったこともあって、研究にやや遅れが生じることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度以降は、二つの方向で研究を進めていく予定である。ひとつは2011年度に引き続き、本研究に必要な文献資料を収集することである。現状では19世紀の言語学に関する文献は比較的多く収集できているが、仏教・インド学に関する文献の収集があまり進んでいないので、後者を重点的に収集・調査することになる。2011年度はマラルメの虚無に関連するものとして友人だったアンリ・カザリスの著作を分析したが、2012年度はもう一人の重要な友人、ウージェーヌ・ルフェビュールの著作を調査する必要があるので、彼の文献の収集も行う予定である。また日本国内の大学図書館、公立図書館では蔵書のないもの、古書店などでも販売されていないものがあり、こうした入手困難な文献に関しては、フランスの国立図書館で調査を行い、充足させる予定である。 もうひとつは収集した資料を分析し、論文を作成することである。2012年度は、マラルメの1860年代の書簡、「イジチュール」「言語に関するノート」「英語の単語」「古代の神々」などの作品を通して、マラルメが言語や文学行為に見出した否定的な概念であった虚無をヘーゲル・仏教思想によって肯定的なものに変換したことを論じ、その積極的な価値を見出した虚無を言語学的=科学的に分析・実証しようとして、「英語の単語」や「古代の神々」を執筆したことを明らかにする予定である。2013年は研究の最終年になるので、1880年代以降のマラルメの文学活動と1860年代および1870年代のマラルメのさまざまな文学的な試みを結びつけ、後期マラルメの詩作品に展開するという形で研究成果をまとめる予定である。また2012年度中にこうした調査・考察の成果を他の研究者の成果とともに、日本マラルメ研究会と共催のシンポジウム(慶應義塾大学日吉校舎で開催予定)で公表し、これを本研究の中間報告と位置づける予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年度の研究費は、主に本研究に必要な図書・文献の購入にあてる予定である。収集する文献の一部は19世紀までの古書となる予定である。文献は古書となるため、必ずしも常に古書市場に出回っているとは限らない。そこで古書店などを通じ収集を依頼することになるため、いつ入手できるかわからないものも含まれることになる。そのため研究上、必要であるにもかかわらず、国内の図書館等に蔵書がなく、入手も困難な資料に関しては、フランスで調査を進めることを考えている。この調査のために2012年度の研究費の一部をあてる予定である。具体的にはフランスへの渡航費及び調査のための滞在費、図書館・資料館等での複写費などである。現在、フランスの国立図書館、ジャック・ドゥーセ図書館での調査を考えており、滞在期間は二週間程度を予定している。一方、2012年度中に開催予定のシンポジウムの会場費、プログラム・案内状の作成費、広報などの費用に関しても、研究費から賄うつもりである。
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Research Products
(1 results)