2012 Fiscal Year Research-status Report
同時代のインド学と言語学を通して見たマラルメの言語観の形成に関する研究
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23520395
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大出 敦 慶應義塾大学, 法学部, 准教授 (90365461)
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Keywords | マラルメ / 言語学史 / インド学 / フランス文学 |
Research Abstract |
平成24年度は前年度に収集した資料の分析に基づいてマラルメと同時代の言語学の関係を研究した。 まずマラルメの最大の詩論である「詩の危機」のなかの第21節の分析・研究を実施した。ここではマラルメが言語をどのように捉えていたかを明らかにするために、ミメーシスという観点を据え、そこからマラルメの言語観を考察した。プラトンの『パイドン』以来、伝統的にヨーロッパで唱えられていた言語本性説とマラルメの同時代の言語学の基本的な考え方である自律的体系としての言語という二つの対立する概念を据え、この二つの極でマラルメの思想が揺れ動いていたことを「詩の危機」第21節をもとに分析した。またこれに加えて18世紀の観念論的な発想もマラルメに見られることを指摘した。この研究に関しては慶應義塾大学法学研究会刊行の『教養論叢』に「存在しない言語を求めて」として発表した。 こうしたことの萌芽がすでに1860年代末に見られることを探るために、マラルメが挫折した学位論文の構想メモをもとにさらなる分析を行った。学位論文の構想メモには矛盾する記述が見られ、錯綜しているが、これが「言語の科学」に関連するメモ、デカルトの数学的言語に関連するメモ、そしてヘーゲル哲学に関連するメモに大別することができ、そのうち「言語の科学」は自律的体系としての言語、デカルトの数学的な言語は言語本性説と捉えることができ、やはり対立的な構図を作っている。この矛盾を解消するために、最終的には挫折するが、マラルメはヘーゲルの弁証法を活用することを試みたことを論証した。 以上の研究を公表するために「マラルメ・シンポジウム2013 マラルメは現在……」を主催し、「マラルメの挫折、あるいは新たな出発」と題し発表した。なおこのシンポジウムの記録は2013年度中に出版する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
マラルメと同時代の言語学に関しては研究はほぼ順調に進んでいるが、マラルメの同時代のインド学に関してはやや研究が遅れている。一つは資料がフランス国立図書館所蔵しかなく、国内の主要な公立図書館、大学図書館には収蔵されていないものがあり、収集が進んでいないことが挙げられる。 また同時代の言語学から見たマラルメの言語観に観しても、1860年代末のマラルメの学位論文の構想の挫折が当初考えていたよりも、それ以降のマラルメの文学活動との断絶が大きく、かつ深刻なことが分かってきたため、この挫折をさらに分析する必要が生じてしまったことも研究がやや遅れている原因となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は研究助成の最終年にあたるので、インド学、言語学に関する資料収集・分析、それに並行して論文等を発表する予定である。具体的にはマラルメの1860年代のインド学、とりわけ仏教学とヘーゲルとの関連を分析し、その影響を見ていく。言語学に関しては当時の言語学とそれまでの言語の哲学との断絶をマラルメはどのように見ていたのかを分析し、最終的にはインド学と言語学が、マラルメの内部でどのように結び付き、言語観を形成したかを明らかにする予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は引き続き、インド学に関する資料の収集を進めるため、研究費の大半は図書の購入にあてることになる。またフランス国内にしかない資料を調査するためにフランスでの取材を夏季の長期休暇に計画している。
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Research Products
(3 results)