2012 Fiscal Year Research-status Report
世紀末前夜の王都ミュンヘンと森鴎外 ―日独比較文学・文化論の見地から
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23520397
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
美留町 義雄 大東文化大学, 文学部, 准教授 (40317649)
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Keywords | 森鴎外 / ドイツ / ミュンヘン |
Research Abstract |
ミュンヘン滞在時の森鴎外をめぐる諸環境を調査するために、所属機関の留学制度を活用して、平成24年度にミュンヘンに留学した。当地では、ミュンヘン大学日本学科のE・シュルツ教授とコンタクトを取り、鴎外と世紀末芸術というテーマに取り組んだ。 その結果の一部は、バイエルン州立民族学博物館において催された森鴎外についての公開講演会(4月27日)で発表された。その講演の際、特に焦点となったのは、鴎外がよく訪れたカフェ・ミネルヴァの存在である。小説『うたかたの記』にも表れるそのカフェは、ミュンヘン美術大学の学生が集う所謂「芸術家カフェ」であった。この講演会では、国境や身分を越えてさまざまなボヘミアンが交流するその場所の特殊性に着目し、それを鴎外が彼の文学テキストに詳細に反映させている点を明らかにした。 その他に、鴎外が頻繁に訪れたミュンヘン郊外のシュタルンベルク湖を調査した。避暑地として知られるこの湖畔は、「メルヘン王」ルートヴィッヒ二世が横死した場所で有名であり、鴎外はその事件を『うたかたの記』に取り入れている。現実を忌避して空想の世界に生きた王をモチーフとしたこの小説は、従来、伝統的なロマン主義の枠内で捉えられてきた。しかし、調査を進めるうちに、この湖沼地帯が、ドイツのモダニズム運動に重要な役割を果たした土地であることが判明した。そうした文化的背景を考慮に入れると、モダニズムを生起させた新進の気運が、『うたかたの記』においても認められる可能性が開けてくる。このことは、従来の小説研究のみならず、鴎外自身の美術観に再考を促すことになるだろう。こうした調査の結果は、研究会における討議を経て、近日中に研究雑誌に投稿される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」では、「従来研究の対象とならなかったミュンヘンの学生街、シュヴァービング地区の生態をも調査し、当時の学生たちが階級や国境を越えて交流していた事実を、このテクストの中に検証する」としていた。今回、実際にミュンヘンに赴き、シュヴァービング地区の研究者、D・ハイセラー博士に会うことができた。氏との意見交換を通じて、この学生街に関して広く知ることができた。とりわけ「カフェ・ミネルヴァ」の図版が手に入ったことは特筆すべきであろう。惜しむらくは、調査に時間をかけるあまり、研究結果の公表が果たせなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、ドイツ留学を通じて収集した、鴎外滞在時のミュンヘンの文献を、美術・文化史を中心に精読する。同時に、データをファイルに入力する作業を行う。 次に、それらの史的背景を、『うたかたの記』『独逸日記』等の、鴎外のテクストに照らし合わせて検証する。 小説の中に認められるモダニズムの萌芽を浮き彫りにした後、レフェリー制のある学会誌に投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
引き続き、「森鴎外とミュンヘン」に関するデータ・ベース作成の仕事を進める。進捗状況によっては、人件費を使用して研究補助員を依頼する。 文献の収集は設備・備品費を使って継続的に進めたい。さらに、旅費を使用して岩見の「森鴎外記念館」を訪れる予定である。 消耗品は主に、論文印刷に使用するトナー、用紙代として用いられるだろう。
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