2011 Fiscal Year Research-status Report
フランス近現代における知的伝統としてのネオ・ジャクソニスム的発想の研究
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23520401
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
田母神 顯二郎 明治大学, 文学部, 教授 (30318662)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | ネオ・ジャクソニスム / ジャクソニスム / ピエール・ジャネ / フランス精神医学 / アンリ・ミショー / メーヌ・ド・ビラン / 解離性障害 / アンリ・ベルクソン |
Research Abstract |
平成23年度は、本研究を遂行するにあたって必要な西洋(とくにフランス)の思想、文学、精神医学史、美術関係の文献資料の収集を主として行った。とりわけ、19世紀末から20世紀始めに活躍した精神病理学者ピエール・ジャネを中心に据え、その思想を一方でフロイトなどの同時代人と比較し、また一方で、メーヌ・ド・ビラン、テオドュール・リボー、ウジェーヌ・ミンコウスキー、アンリ・エーといった系譜のなかで研究した。この研究の成果は、「ピエール・ジャネと<フランス流無意識>」(『文芸研究』第116号、明治大学文学部紀要、2012年3月、97-131頁)にまとめてある。また、文学面では、アンリ・ミショーの前期作品(1920~40年代)を精神医学との関連で分析し、その成果を「断片たちの天使」(『ラルシュ』第22号、明治大学大学院仏語仏文学研究会、2012年5月刊行予定)にまとめた。 また、2012年3月には、フランスに赴き、サン・レミ・ド・プロヴァンスにあるMausole修道院付属の精神医療施設(ヴァン・ゴッホが入院していたことで有名)、パリのサン=タンヌ病院やサルペトリエール病院などを訪問し、フランス精神医学史と現在の精神医療政策に関する資料を収集した。また、精神医療におけるアート体験療法について調査することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、平成20-22年度における「フランス近現代文学におけるジャクソニスム的傾向の研究」を発展させたもので、19世紀と20世紀のフランスにおける「新たな知の系譜図」の作成を目指すものだが、前回の研究段階ではまだ明確なものではなかったビランからジャネやベルクソンを経て、ミンコウスキーやエー、さらにはメルロ=ポンティやドゥルーズにもおよぶ「ネオ・ジャクソニスム的発想」の系譜が、かなり見通せるようになってきた。とくにジャネの各時期における思想の推移が、「時間」論という視点の導入によって、より正確に分かるようになった。またそれと連動し、他の思想家の「位置づけ」もいっそう精緻なものとなりつつある。一方、アングロ・サクソン系の思想、たとえば、チャールズ・サンダース・パースやアルフレッド・ホワイトヘッドの思想、さらには彼らの紹介者であるジャン・ヴァールの業績も視野に入るようになり、より複線的な影響関係を仮説できるようになった。またジャネとベルクソンの思想の形成過程を知るのに欠かせない1860ー1880年代のフランスにおける哲学的動向を知るための資料も入手できた。 一方、「ネオ・ジャクソニスム」は「生成」の問題と、ひいては「ミュートス(神話・物語)」とも関係するものだが、3.11以降の状況も手伝い、ネルヴァルやランボー、プルーストやミショーといった作家の作品を「生成」や「ミュートス」性の観点から分析することで、本研究の新たな可能性を見出すことができたと考える。これまではロゴス的知性の側面に焦点が当てられていたが、カッシーラーによって先鞭をつけられたミュートス的知性という着想を取り入れることで、思想と文学と心理学を、いっそう緊密に結びつけるたの「方法」が見え始めたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当面は、本年度に引き続き、文献資料の収集と分析に力を入れ、「新たな知の系譜図」作成の作業を進めて行く予定である。また平成24年度内に、3~5本の論文を発表し、本研究の中間成果報告としていくつもりである。またこの作業がある一定の完成段階に達した時点で、他の研究者を招聘してのシンポジウムや講演会を行い、本研究の成果を社会に報告すると同時に、不足部分を明らかにしていきたいと考えている。また、去る3月のフランスにおける現地調査で得た成果をもとに、ヨーロッパの精神医療史研究やプリミティヴ・アート研究をさらに充実させるべく、24年度もスイスの精神医療関係の施設を中心に現地調査を行う予定である。最終的には、これらの成果をまとめた論文集または著作の発行を目指している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、約17万円強の残余金を出したが、これは3月に行ったフランスでの現地調査にかかった費用の一部が年度内の決算に間に合わなかったためであり、カード明細書などの資料が整い次第、全額使用済みとなるはずである。 平成24年度については、基本的には物品費(書籍代)と旅費(フランスおよびスイスでの現地調査のための出張旅費)が中心となるが、新たに論文の英訳出版の企画が入り、一部はそのための費用(英訳作業への謝礼など)に回ることもありうる。これは、3月に懇意にしているフランス人研究者に本研究の概要を説明したところ、たいへん興味をもってもらい、フランス語だけでなく英語でも発表するべきだと励まされたことによる。
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